1.都市の現実についての対話


居住アジェンダ(行動計画)とMDGsを支える、革新的な都市政策と法制度

世界の指導者たちはミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、以下MDGs、文末の注を参照)の達成時期を2015年あるいは2020年と設定しており、それまでに世界の人口の50%以上が都市あるいは都市の周辺エリアに住むと考えられている。現在の都市人口は35%程度であるが、開発途上国では大規模な人口移動が見込まれている。法的な枠組みと統治システムの改革が緊急に行われなければ、都市に流入した人口の殆どが、MDGsが要求している適切な住居や水、衛生環境を得られないだろう。公共団体には、適切な政策を通じて、貧困に対抗し、社会的な観点を含んだ経済的な開発を活性化させる能力が求められている。他の優先事項としては、男女平等や健康、人間的なサービスの供給に社会的に取り組むこと、また、十分な水と適切な衛生環境、エコ・システムや自然環境の保護などが含まれる。決定プロセスへの市民社会の参加を含め、現在の法律や政策の評価を改善する効果的な手法が必要とされている。これから提示する例は、対話の手本として成功した革新的な戦略の概要を示している。


不動産保有の突破口 − ブラジル

土地を入手し、その保有を保証することは、スラムの廃止と都市の貧困層の全般的な状況の向上に重要な役割を果たしてきた。公然の制度化は、政治的にセンシティブな状況を招いてしまう。しかし、土地保有の保証を欠いた場合、スラムの居住者と公益事業(インフラ供給)会社双方の、改善のために必要な投資の意欲をそぎ、制度化の妨げとなる。貧困層に対する土地(所有)の規則(Pro-poor piece of land legislation)は、ベロ ホリゾンテ(Belo Horizonte)や他のブラジルの都市で、この悲惨な悪循環を断ち切ることを可能にした。法や規則に対する一時的な見送りや緩和により、公的組織や公益事業(インフラ供給)会社、そしてスラムの居住者が、非合法な居住地を改善し制度化する計画をともに考えることが可能となった。公共の関与が促されることに加えて、熟慮された改善計画があることで、スラムの居住者は改善のために投資したり、規則や水準(訳注:建築の規則や水準、税の支払いなどが考えられる)に従ったり、土地の法的な承認を受けるとともに、権利証書も得られるようになった。


住宅に関する悪循環 − 中国

低所得者層への住宅供給は、依然として多くの国で課題として残されている。都市への移民に付随して発生する社会的・経済的そして政治的な問題は、開発途上国において一層顕著になりつつあるので、急速な都市化は、この住宅問題に対する取り組みを躊躇させてしまう。これらの問題は、補助による公共住宅や、中心市街地の改修、スラムの改善や支援を含む従来の戦略において大混乱を引き起こす。この結果、貧困と欠乏、社会的阻害の悪循環がもたらされる。中国は、この問題に頻繁に直面している。都市経済の急成長により、限られた収入と貯蓄しか持たない世帯には、住宅の支払いや入手が不可能となる。この悪循環を打破するために、中国の都市は、(協議された価格帯で住宅を供給する)不動産開発者に財政的な奨励策を与え、また、(住宅の保有を促進するために)標準に準ずる住宅に住む世帯に対しても、平等に助成金を支給することで、需要と供給を活性化させた。


(市民との)協力と(地方政府の)権限強化 − フィリピン

市民との協力によって、地方政府は社会的・経済的発展と環境マネジメントの最前線に立っている。逆説的に言えば、多くの開発途上国において、地方政府の財政と意思決定に関する自治権は、これまで限られてきた。フィリピンも例外ではなかったが、1991年から新しい地方政府の規約のもとで、社会的・経済的・文化的開発の全ての側面において地方政府の役割と貢献が強化されるようになった。それ以来、地方政府は(より広い課税権を含めた)より多くの財政源を得ることができるようになり、また投資の増加も可能となった。また、この規約は、人々の裁判の利用を奨励し、一方で地方政府が地域的な論争を仲裁し、判決を下す権利も与えることとなった。


遺産と低所得者層 − スペイン

ヨーロッパでは、高い失業率と移民の流入が複合した原因となり、歴史的中心市街地の内部、あるいは近接した地区の全体が荒廃し、歴史的・文化的遺産の保護が課題となっている。このような地区において、(訳注:通常の投資によって引き起こされる家賃の高騰などが招く)高級化は解決策になるどころか、廉価な住宅の供給不足、スプロール、社会的阻害を招き、かえって状況を悪化させることとなる。このような事態に対し、いくつかのスペインの町では、公営住宅へ移行する代わりに、歴史的市街地において、老朽化した住居を修復・改善する低所得世帯に資金援助することを決定した。様々なスキームと誘導策が、この計画を補足した。この新しい統合的なアプローチは、歴史的な住宅の利用転換や修復に対する個人の投資を活性化させ、荒廃を防ぎ、歴史的中心部を蘇らせ、そして社会的な統合を促進することとなった。


全ての人々のための水と衛生環境 −南アフリカ

過去数年間において、南アフリカでは水と衛生に関わる国の政策と法的な枠組みが大幅に見直された。新しい法制度は、公平・平等そして持続可能性の要求に従い、過去のアパルトヘイト法に起因する水供給の不平等を是正した。この新しい憲法によって、水を入手する権利の平等が揺るぎのないものとなった。南アフリカでの水と衛生に関する改革は、すでに大きな効果を示している。標準的な水の供給が受けられる人口の割合は、1994年の60%から2002年には83%、2003年には86%へと増加した。標準的な衛生環境にある人口の割合は、1994年の49%から2002年には60%、2003年には63%へと増加した。


開発戦略 − モロッコ

多くの開発途上国の大都市政府は、インフラストラクチャーやサービス、社会経済的な開発の計画に関して行政的な決定をする際に必要な手段と柔軟性を欠いている。地方政府は、時折、広い範囲での社会経済的もしくは環境的な傾向や状況には目もくれず、資源やサービス獲得のために競争し、自らのためだけの優先項目とニーズを満たしている。このことは、基本的なサービスの入手や供給における不平等に帰結することが多く、また広範にわたる非効率性や低生産性へもつながっている。モロッコのテトゥアン(Tetuan)での経験は、統合的な都市開発計画や監視、管理を開始するにつれて、分権化と行政改革こそが、地方政府がこの問題を克服する一助となることを示している。近年、利害関係者の参加と、社会的・経済的・環境的な計画と管理を繋ぐ手段によって、参加型の計画は都市の貧困を改善し、地元での経済開発を刺激することに効果をあげている。他のモロッコの都市では、この経験を参考とすることを検討している。


MDGsが明らかにした矛盾

これらの事例が示すように、先進・開発途上双方の多くの国において、都市的な貧困の改善が妨げられてしまうような法制度における悪循環・逆説・矛盾・不合理が、MDGsを遂行することで明らかにされている。数々の経験によって、開発計画と運営を発展させるような革新的かつ統合的なアプローチは貧困に対峙する都市政策において主要な役割を果たしている。このことは、効果的な分権化と地方政府の権限強化の必要性を示している。民間セクターは、都市住宅とインフラストラクチャーの供給と需要を活性化する奨励策を必要としている。市民社会におけるパートナーシップによる真の意思決定に加えて、不動産保有の保証と基礎的なサービスの供給がなされることは、生活の向上と都市の貧困の改善のための必要条件である。


国連人間居住計画(UN-HABITAT)特集記事



注:国連ミレニアム・サミット(2000年9月、ニューヨークで開催)に参加した147の国家元首を含む189の加盟国が、21世紀の国際社会の目標として採択した「国連ミレニアム宣言」と、1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通枠組みとしてまとめたもの。