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チリは日本と同様に細長い国である。細長い国の空間的な戦略には、まずは長い方向に繋げることで国土を一体化することがあるようだ。今回チリ在住のルチアーノとフランシスカに紹介してもらったチリの首都サンチアゴの場合、60年代の都市計画による高速道路によって首都の中心から南北の地域へと国土の連続を図っている。これは日本の場合も同様だ。1972年の『日本列島改造論』(田中角栄、日本工業新聞社)で論じられているのは、日本列島の「4つの島」を全国新幹線や高速道路、本四連絡橋などのインフラによって動線的に一体化し24時間で移動のできる「1日行動圏」にすることであった。
さて今回は、インフラの建設を例に都市空間の形式を考えてみたい。『日本列島改造論』のインフラは地方開発を目指して先行投資的に建設されるものだが、ここで考察したいのは、サンチアゴの高速道路や東京の首都高のように、既にある密度で出来上がっている都市に付加的に建設される「オーバーレイ」型のインフラである。このような既存の都市にインフラを建設する場合、まずは建設地となる土地を見つける作業が必要になる。ヨーロッパの多くの都市で見られる環状高速道路は、都市の中心部を避けてそれを取りまく周囲に余っている土地を見つけるものだ。サンチアゴや東京のように都市の中心部にインフラを通そうとする際には、より綿密に土地を見つけなくてはならない。サンチアゴの場合、やはり16世紀から作られた既存の都市であるため、国有の「処分可能な土地」を見つけていった。東京の場合は、皇居のお堀や大きな公園の端などの空いている土地を見つけていった訳である(塚本由晴らによる『首都高速ガイドブック』、10+1 No.16、INAX出版に詳しい)。ただし両者は見つけたあとが少し違っていて、東京の首都高の多くは空いている土地の上に高架として建設されたが、サンチアゴの南北ハイウェイは地下鉄を中央分離帯に走らせ掘って建設された。
ここで都市空間のオーバーレイに言及したものとして、コーリン・ロウの『コラージュ・シティ』(1978、鹿島出版会1992)を振り返ってみたい。彼はここで近代の都市計画を論じる際に「単一の観念に関心」のある「トータル・デザイン」の代表例としてパリ郊外のヴェルサイユ宮を挙げ、これに対して「互いに無関係の情熱が全く無調整のままアマルガム化」した「断片化された刺激素の集合」としてのティヴォリのヴィラ・アドリアーナに可能性を見ている。既存の都市にオーバーレイされるインフラは、都市空間におけるこのような無関係な断片の一部をなすものと言えよう(実際、彼はティヴォリやローマだけでなく、ヒューストンやロサンゼルスを例にして「高速公共鉄道網を敷設することが…《ブリコラージュ》の発展の一環としては歓迎したい」と述べている)。このような互いに無関係なものの接合によって成立する「衝突の都市」には、その後80年代に隆盛を誇ったディスプログラミング的な可能性を見いだすこともできるが、ここで重要なのは、彼がヴィラ・アドリアーナの特徴として「合成品であるにもかかわらず、すべての要素の《つじつまが合っている》」という点を挙げていることである。インフラの建設にかかわらずオーバーレイ型の都市計画には、不可避的にこの種の「つじつま合わせ」が要請されるのではないだろうか。
チリの南北ハイウェイは中央に地下鉄を走らせることで、おそらく道路面を水平に保つ必要が生じて掘り割り状となり、東京の首都高は、お堀や公園、既存の道路などのスペースに短期間に建設するために高架となった部分が多い。2つの都市のオーバーレイにおける現れ方の違いは、高速道路自体が内在的に要請する形態的な条件と、それを建設するために見つけられた空地の配列や地形などの外在的な条件との「つじつまの合わせ方」の違いと言えるだろう。高速道路ではないが地下鉄銀座線が渋谷で東急百貨店に貫入するのは、渋谷がその名の通り「谷」であるために、隣の恵比寿での地下レベルが渋谷では地上数階レベルに相当することの「つじつま合わせ」の結果である。
このような都市空間における「つじつま合わせ」とは、つまり、「オーバーレイ」の際にある条件(例えば、水平に保つこと)にプライオリティを置くことで、他の条件をそれにすり合わせることである。すり合わされた条件には一見すると矛盾が生じるが、これをメリットとして捉えることも可能だろう。例えばサンチアゴの南北ハイウェイは、地上に建設するよりは騒音を軽減しただろうし、また地上の境界線となることで歴史地区の保存に一役買った。渋谷の地下鉄銀座線と東急百貨店の貫入は、内部空間ではインフラとデパートとの特異なまでの近接を実現し、外観上は渋谷の特徴的な景観の形成に役立っている。サンチアゴの高速道路の一部にプラットホームを架けるプロジェクトは、60年代の計画によって結果としてできた人工的な「お堀」に再び土地を作り出すという、二度にわたる「つじつま合わせ」と言えるだろう。
インフラの建設にかかわらず、既存の都市に対する都市計画には不可避的に外在的な条件との「つじつま合わせ」が生じる。この「つじつま合わせ」を計画の内部に組み込むことによって計画水準が複数化され、都市空間のいわゆるセミラチス状の多層な形式が可能となるのではないだろうか。
profile
安森亮雄(Akio Yasumori)
1972年生まれ。建築家・都市研究(都市の空地の空間構成)
1996年、チーム・メイド・イン・トーキョー参加
1998-99年、ベルラーヘ・インスティテュート(オランダ)
2002年、東京工業大学大学院博士課程 単位取得退学
現在、東京工業大学大学 技術補佐員
主な作品に
「Tokyo Suburb Void Map」,「LA Surface Urbanist's Catalogue&Tutorial」(『10+1』No.24, 『Hunch』No.1)、
「Sport-Voids Home」(新建築住宅設計競技2001・佳作、『新建築』0112,『JA』No.44)、
「森の戸建集合住宅」(播磨科学公園都市・戸建住宅コンペティション・最優秀賞、『新建築』9708)、
「距離を彫る家」(第六回エスバイエル住宅設計コンペティション・妹島和世賞、『新建築』9607)など。
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