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第一回目は、南アフリカ(ヨハネスブルグ)のアーバニズムについてレポートしてもらった。
ヨハネスブルグの郊外では、ひとつひとつの敷地が防犯グッズ満載の塀によって囲まれ、さらに住宅地全体も警備員つきの塀によって囲い込まれている。つまり、二重の入れ子状に包含された都市空間が成立している訳である。この空間的な囲い込みのためには、塀やゴルフコースといったどこの都市でも見られる都市の要素が動員されるとともに、新たに様々な防犯グッズが開発され、さらには警備会社による武装サービスという社会システムまでもが整備される。実際、警備産業は南アフリカで最も急成長中の産業であるそうだ。興味深いのは、この囲い込みによる空間的な分節の強化は、アパルトヘイトの廃止という社会的な分節の消滅によって起こったという点である。制度上の分節線が無くなったことによって、人々の居住領域は大きく流動した訳だが、結果
としては白人と黒人の社会的な分節は残存し、それが囲い込みという空間の形式といて表れたと言えるだろう。アパルトヘイトという非常に特殊なコンテクストというカッコ付きながら、ここには都市の空間の分節化、断片化のひとつの極限をみることができる。
また同時に、これらの住宅地は歴史的なイコンに溢れたテーマパークとなっており、80年代のポスト・モダニズムが依然として商業的な場において魅力的な記号としての喚起力を発揮していることを示している。
この囲い込みとテーマパーク化という二つの現象は、しかしヨハネスブルグに限ったことではないように思う。東京の都市空間を振り返ってみれば、例えばお台場のヴィーナス・フォートでは、ブラックボックス状の建物の中にイタリアの街路空間と青空が作られ、小規模ながらもヨハネスブルグと同様、囲い込みとテーマパーク化による空間が成立している。ヴィーナス・フォートは文字通
り、ヨハネスブルグでの要塞(フォート)化の東京版とも言えなくもない。アパルトヘイトに限らず、社会がボーダレスでシームレスになっていく一方で、おそらくいたる都市で空間の分節の強化は起きているのかもしれない。
IT等々の多様なメディアが出現する中で、建築や都市という空間のメディアは徐々に相対化されつつある。しかしながら、南アフリカでアパルトヘイトが廃止されたにも関わらず、囲い込みという空間の形式が今でも白人と黒人の社会的な分節を保証していることは、やはり空間というメディアの社会に対するとてつもない力を示しているのではないか。かと言って、新たな空間のあり方を提示することで社会のあり方を変革するといった、モダンなプロセスが通
用するほど、現代は単純にいかないのもまた事実である。この微妙な相互依存性の中に、現代の社会における空間というメディアの可能性があるように思う。
このレポートのシリーズでは、様々な都市で現在進行している現象をレポートしてもらうことを通 して、都市の空間の形式とその成立条件を探っていくことを意図している。これは例えて言えば、関数とグラフの関係のようなものである。どんな関数(=都市の条件)の下で、どんなグラフ(=都市の形式)が成立しているのかを、横断的に観察してみようということである。関数には例えば、資本の論理、法律、住環境への欲求、地形等の物理的な環境などが挙げられる。グラフとは例えば、今回のレポートでの囲い込み(包含)という空間の形式のことである。条件が同じでも二つの都市で異なった空間の形式が成立しているかもしれない。あるいは条件は全く違って見えながら、同じような空間の形式が成立していることもあるだろう。また、ある関数に含まれる変数(=条件が許容する振れ)に対して、それぞれの都市の固有値(例えば、固有の地形)が代入されることで、関数の一部が定数化し、空間の形式が変わるかもしれない。この関数とグラフの読み解き作業には、都市の間で共通
するジェネリックな部分だけでなく、それぞれの都市に固有なスペシフィックな部分も観察する必要があるだろう。あるいはそれらの関係を見極めていくことかもしれない。以上の作業を総括して、私の担当するシリーズの仮題をとりあえず「スペシフィック・シティのアーバン・フォーム」としてみた。
様々な新しいメディアの出現によって空間というメディアがどこか相対化されていく中で、それでもなお、都市における空間というメディアの可能性を、その具体的な形式として見いだ
していければと考えている。
profile
安森亮雄(Akio Yasumori)
1972年生まれ。建築家・都市研究(都市の空地の空間構成)
1996年、チーム・メイド・イン・トーキョー参加
1998-99年、ベルラーヘ・インスティテュート(オランダ)
2002年、東京工業大学大学院博士課程 単位取得退学
現在、東京工業大学大学 技術補佐員
主な作品に
「Tokyo Suburb Void Map」,「LA Surface Urbanist's Catalogue&Tutorial」(『10+1』No.24, 『Hunch』No.1)、
「Sport-Voids Home」(新建築住宅設計競技2001・佳作、『新建築』0112,『JA』No.44)、
「森の戸建集合住宅」(播磨科学公園都市・戸建住宅コンペティション・最優秀賞、『新建築』9708)、
「距離を彫る家」(第六回エスバイエル住宅設計コンペティション・妹島和世賞、『新建築』9607)など。
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