

1.西リング・ロードのそばの眺め。2001年4月
2.プラス・ダイアグラム
1:カントリー・ロード、2:幹線道路、3:リング・ロード(Stefano Scalzo作成)
3.新しいインフラが結びつける要素
川の屈曲部(図左上)、ケイラー墓地(中央上)、インターチェンジ(右上)、ターミナル駅(左下)、宅地分譲による公園(右下)
4.リング・ロードから見たケイラー・ターミナル駅のシルエット
5.複合した地役権
ノイズ、フリーウェイの大気汚染ゾーン、空中の送電線、航空路、計画中の空港へのアクセス鉄道、レクリエーション公園などのオーバーレイ(Paul Dash作成)
6.電線パーク
送電塔の影響によって、住宅地にはオープンスペースが増えている(Paul Dash作成)
7.消防署のクラスター
ケイラー・パーク・ドライブの敷設によって新しい近隣を伴うこととなったケイラー消防署(Tessalin Ng作成)
8.馬蹄形に曲がったアリーナ
Maribynongリバー・バレーのパースペクティブ・スタディ(Charina Coronado作成)
9.高架
1990年代のリング・ロードの高架。1920年代の鉄道橋と郊外の平原がうしろに見えている。
10.フェンスつきの地役権による公園
11.ケイラーの空撮(1998年)。
番号は各図版の位置。
12.ケイラーの空撮(1975年)。
リング・ロードやその他のインフラが引かれる前から存在する馬蹄形の湾曲、ケイラー墓地、ターミナル駅。
「メルボルン リング・ロードのエコロジー」
ナイジェル・バートラム (訳:安森亮雄)
隠れていたエリアの露出
1990年代後半にメルボルンの西リング・ロードが開通し、その副産物として以前は隠されていた広大なエリアが露出した。この道路はメルボルンの一部を横切り、新しいアドバンテージのある場所を提供している。かつて裏だった場所が表になったのである。道路ができた場所では元々あった方向性が切断されたが、そういった敷地に計画される新しい開発は、新しく、安価で、商業的であるという理由から、リング・ロードに向けて徐々に方向性を変え始めている(図1)。このレポートは、メルボルンの中心から15キロにあり、郊外の開発に囲まれた、ケイラー地区で見られるギャップに焦点を当てたものである。
プラスの風景
リング・ロードのドライブは、幹線道路のように一点に向かうものではない。長い道路に沿ったドライブでは、不規則で付加的な都市環境を目にすることになる(図2)。都市的なスケールでのコネクターとしての性格によって、ランダムさの競演と、都市組織の分断、局所的なスケールでのイベントがもたらされている。都市の残部との魅力的で離散的な相互作用によって、奇妙なハイブリッドが存在しているのである。こういった中間的な状態は、「ギャップ」のランドスケープの経験に通じる。このような環境においてどんな新しいツールを発見できるだろうか?焦点のないルーズな環境に対して、いかにポジティブに関わることができるだろうか?以下の観察は、これらの問いを念頭において行ったものである。
ビッグ・ヴォリューム
一連の自己充足的で自己中心的な図形が、ケイラー地区に浮かんでいる(図3)。これらの墓地やターミナル駅、インターチェンジ、公園などはずっと前からあったものだが、新しくできたリング・ロードによってそれらを巡るルートができ再フレーム化された。これらの大きな図形は水平方向の動きに対する障害物となっているが(周囲をめぐることは困難である)、しかしまた透明なものでもある。空白地帯におけるマークとしてくっきりと浮かび上がってはいるが、ソリッドなものや長い間変わらない都市の人工物というよりは、むしろ穴のようなものである。穴の中の穴(二重否定)が、新しいタイプの肯定を生んでいる。
ロー・マッス
これらの軽い図形は地上からは見えにくい。地上に引かれた境界線や、芝生の生えている所と生えていない所の差でしか認識できないこともある。大きくて軽い物体のタイポロジーが出現しているのである。フェンスに囲まれた場所、再緑化ゾーン、テニスコート、ゴルフ打ち放し場、採石場跡地、川の湾曲部、発電所、墓地、分離帯公園、駐車場、サッカー競技場_これらの郊外特有のものは広い空間を占有するが、重さのないものであり(図4)、ある場所を空間と記憶に「フィックス」するような局所的な中心をつくりだす効果がある。しかしながら、物理的にはほとんど何も無いのも同然なのである。
食べ残しのランドスケープ
もうひとつの視点からみたケイラー地区の穴は、混成した地役権、つまり恒久的な建物の建設を防ぐ見えない境界のオーバーラップによってできている(図5)。これらの法的な建設禁止エリアはまた、環境保全の手段としても機能している。フェンスや鉄道に沿ったエリア、送電線の下、洪水の起こる平野、勾配が急な場所、立入禁止エリア_これらはケイラー地区の大部分を占め、環境がもっとも安定した部分となっている。ほとんど変化しない場所であり、周囲のメトロポリスのダイナミックさに対する最大の抵抗場所ともなっている。こういった普段は見えない空き地の断片には、建物よりもずっと長い持続力がある。
計画の凹凸
ケイラー地区の「グリーン・スペース」は、政府によるパブリックなアメニティ公園と、インフラ敷設用地、計画中の未利用地の組合せからできていて、普通これらの違いを見分けることは難しい(図6,10)。公園の大半は単なるフェンス付きの芝生であり、地役権によってできた空き地の多くは、近隣の住人のおまけの裏庭としてレクリエーションに使われている。最も緑が生えている場所が未利用地であることさえある。アクティブな面とパッシブな面とが「グリーン」という色の視覚的な共通性のもとで不確定のままミックスされている。公園と建設禁止エリアというように用途は異なるが、「グリーン」であるという形式的な共通点による交換可能性があるのである。
再フォーカス
ルーズでフレキシブルであることによって、既存の環境を新しいストーリーへとシームレスに協調させることができる。とりたてて何もなかった工場の背面は、リング・ロードに面したことによって塗り直されて看板となり、あるいは2重に防音された壁として機能している。大通りに面していた消防署は、新しいルートにおいては回り道となり、イタリア人とギリシア人のコミュニティ・センターが建つ「おまけ」のスペースを提供することとなった(図7)。現在この3つの施設は、消防車の出入りする駐車場を共有し、事実上のパブリック・スペースが出現している。消防車に裏門が追加されたことで、周辺環境の焦点は微妙に移動した。
ダブル・バインド
こういった地域ではよく道に迷ってしまい、目的地にたどり着けないことも多い。勾配が急なため行き止まりだらけの迷路のようで、河川や鉄道やリング・ロードを横切る橋がなく、通行禁止の地役権があり、つまりは単に未完成なのである。河川はSの字に曲がって谷を両断し、方向感覚のなさの一因となっている(図8)。S字の川がつくる2重の谷のスペースはオープンな場として認識できるが、どちらからも反対側を見ることはできず、他方の空間をポケットとして内包したアリーナ状の地形が形成されている。つまりこういった郊外では、ある場所で起こっていることを他の場所で知ることができないのである。この種の「明確でない」空間配列は、見かけ上は相入れないものを共存させることを可能にする。
フラットネス
メルボルンの西側はほとんどフラットだ。地理的には、河川に浸食された玄武岩でできた広大な平原である(図9)。この水平さは、平屋の住宅と低層の工場の一様な広がりによって強調されている。このように一様な形態が続く環境では、微妙な高さの変化ですら敏感に感じられる。1層分上がればパノラマが目の前に広がり、逆に数メートル下がれば都市に身を隠すことができる。フラットな郊外は高さに敏感だ。「ヒューマン・スケール」かつ「車のスケール」であることも可能であり、このことは建築のスケールについての再考をせまるものである。
むき出しのミニマムさ
このような環境は最小限のものである。美や道徳といった義務からではなく、モノとしても努力としても最小限であり、経済的で効果的だ。予算、プログラム、時間、行為が「十分ではなく」、密度がまばらであるため、我々の関心は必然的に手段の脆弱さへと向かう。ここでは都市に関する通常の判断基準を適用することは難しい。少ないものから多くのものを作り出し、実際には何も変えずに効果的な変化をもたらすことが必要である。この種の場所ではマジシャンのような手段を用いて仕事をしなければならないのである。
profile
ナイジェル・バートラム
1968年生まれ。メルボルン工科大学建築学科講師。NMBW Architecture Studio(メルボルン)主宰。
1998 - 99年、シーラカンスK&H勤務。
2000年、メルボルン工科大学の東京工業大学との交換プログラム・リーダー(Marika Neustupny、Shane Murrayと共同)
このレポートは、メルボルン工科大学における2001年のリサーチ・プロジェクトの一部である。
リサーチ・リーダー:Nigel Bertram, Shane Murray, Marika Neustupny.
参加メンバー:Katja Bode, Manuele Morero, Stefano Scalzo, Simon Shiel, Stephen Staughton. (以上、修士課程)。Weng Si Beh, Arthur Peng Kien Chow, Charina Coronado, Paul Dash, Peter Johnson, Andre Konarski, Sang Yew Lau, Tessalin Ng, Thi Vinh Phan(学部最終学年)。
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