「Take Me to the Downtown LA再開発の夢と現実」
宮内智久

SCI-Arc移転
2000年9月、アメリカ西海岸の建築文化のシンボルである南カリフォルニア建築大学(通称サイアーク)(Fig.1, Fig.2)は、三代目学長二ール・ディナーリの下、マリナ・デル・レイの海岸沿いからダウンタウン(Fig.3)に引越した。
なぜ建築文化の中心が、あえてその母体である豊かで陽気なビーチ・カルチャーから離れて、校舎もないうちに巨大なテントを建て(学校自体、砂漠化したダウンタウンのキャンプ状態である)、アメリカで最も低所得者やホームレス、麻薬中毒者の割合の多い、あまり人も住み着かない、精神的にも荒廃したダウンタウン(Fig.4)に移ったのであろうか。

そんなSCI-Arcのおかれた現状を探るべく、ロサンゼルスのダウンタウンのドライブに出た。このレポートは、そのドライブ中にシューティング(乱射=乱写)した光景のサンプリングである。

ダウンタウン・アップ・デイト
一昨年完成したステープルセンター(Fig.5)は、ダウンタウンの南、コンベンションセンターの隣にあり、この2つの施設だけでも世界中から年間百万人近くの利用者がある。マスメディアの富豪ルパード・マードックの出資で、周辺のパーキングスペース、向う8年間のホテル区画の拡張、スポーツ・エンターテイメント区画の整備が計画されている。それとは対照的に、地元の住民、特にラテン・アメリカからの移民は、貧困、メディケア不足、ギャングの抗争、200%近い教室占有率による学校不足(Fig.6)などに悩まされており、税金を再開発(私有の大企業)に投資すべきか、せっぱつまった地元民の生活改善のために優先的に使うべきかを巡って、討論が行われている。開発側はスポーツ・エンターテイメント区画が地元に与える経済効果を主張したのに対し、住民側はそれに伴う住宅不足、ホテルや施設で働くラテン系が占める割合の多い清掃用務員の過酷な労働環境を抗議し、開発の一環として安価な住宅施設、最低労働賃金、安全な労働環境の保証を開発側に約束させた。

2000年にはステープルセンターを本拠地とするLAレイカースがNBAチャンピオンとなり、またクリントン政権下の民主党大会が行われた。レイカースの優勝が決定すると地元のファンは暴動を起こし、パトカーに火をつけるなどの騒ぎを起こした。一部の経済学者は90年代のドット・コム・バブルであまり利益を得ることができなかった低所得層の憂さ晴らしだともいう。民主党大会では、中国に対する自由貿易条約が国内産業に与える影響を懸念し、環境破壊、児童労働や投獄者の人権侵害などを理由に、反商業主義、環境保護、人権主義グループを中心としたデモがあり、同時にアナーキックなヘビーメタルバンド「レイジ・アゲインスト・マシーン」の勃発的コンサートがステープルセンターの前で行われた。

チャイナタウンの東、ロサンゼルス川(Fig.7)に沿っての空き地、古くなった線路の区画は、カリフォルニア州知事グレイ・デービスが3000万ドルの州立公園の補助金を承認すれば、ロサンゼルスの真中に16万平方m近くの広大な土地が緑地化される予定である。ロサンゼルスにもニューヨークのセントラル・パークに匹敵するような公園が、はたして実現するのであろうか。

建築家とダウンタウン
ダウンタウンの北、リンカーン・コンサートホール、コルバーン・スクール・オブ・ミュージック、磯崎新によるカリフォルニア現代美術館本館のあるバンカーズ・ヒルの文化・芸術指定区画(カルチュアル・コリドア)には、現在、スペイン・ビルバオの美術館で話題になったフランク・ゲーリーによるディズニー・コンサートホールが建設中である(Fig.8)。その特殊な外観がビルバオという地方都市にあたえたインパクト、大文字の建築家の介入ともいうべき都市再開発が、地元ロサンゼルスでもそのシンボルとして、または都市のアイデンティティとして機能しうるのであろうか。数ブロック東にはラフィエル・モネオによる、アメリカ大陸では最大規模のローマン・カソリックの大聖堂も現在建設中である(Fig.9)。

これらの建築的介入が、芸術的、精神的な意味での中心的な場を提供し、北米大陸では衰退しつつあるダウンタウンという場の復権を実現することができるのであろうか。カルチュアル・コリドアの後援者、コルバーン・スクール・オブ・ミュージックの出資者であるSunAmericaのイライ・ブロードは、人種別に住み分けられたロサンゼルスという都市の存在感のないダウンタウンを、世界中から来た人々が集まり、分かち合える場にしようと唱えている。

白昼夢
ディズニー・コンサートホールにおいては、ハリウッドが作り出す映画のように、その建物があたかも特殊効果のごとく町並みにはめ込まれている。これは夢と現実が殺到したロサンゼルスの現象であり(Fig.10)、フランク・ゲーリーの建築のタイポロジーなのかもしれない。そして同時に、従来の大文字の英雄的建築家が抱える社会的ジレンマを、皮肉にも象徴しているかのようにも見える。特にディズニーという代名詞がついた建物に代表されるダウンタウンの再開発が、そもそも富豪たちの政治的スローガン、マネー・メイキングのシナリオであることは否めなく、私有企業が財政難である公共の場に浸透するという事態は間逃れない。しかし現に、ダウンタウンのメイン・ストリートであるブロードウェイには、ラテン・アメリカ系、アジア系移民の店や倉庫、レストランが並び、住民の貧困とは対照的に、ビジネスはグロバリゼーションの真っ只中にあり急成長している。そこはアメリカの大戦前の建物が今も廃墟のようにそびえ、その上にオーバーラップした(fig.11)、何処かラテン・アメリカの都市のようで何故か中国の町ような、郷愁的で賑やかな、地元民による地元民のためのダウンタウンなのである(Fig.12)。

ニュー・パラダイム
ロサンゼルスは、90年代の安定した経済をバックに、資本の流入先がサバービアからアーバンへと変貌しつつある。古い建物は修復され、賃料の安い空きビルはベンチャーやドット・コムのロフトに早代わりし、市街は映画撮影にも最適な場を提供している。スポーツの中心も、ホーム・ラン(家に帰る)とスラム・ダンク(貧民街へ投げ込む)、ドジャース・スタジアムからステープル・センターへと拡張した。建築家達はビーチを離れ、コンクリート・ジャングルで蠢く人々の現実を直視し、瞑想状態にある。
サイアークの移転には、マリナ・デル・レイの校舎が映画撮影のためのスタジオ予定地に隣接し、賃貸料が値上げされたため、また海沿いより地価の安いダウンタウンで念願の学校を所有するためという背景があり、この移転計画にはここで述べたロスの現状が如実に投影されている。しかし何よりも重要なのは、そういったダウンタウンの渦中に学校を構えることで、社会的な問題を視野に入れた建築家を養うことにある。そこでの本題は、低所得の住民や移民と観光客や大企業がもたらす貧富の差、現存する社会的問題と再開発のギャップを、市や市民、インタレスト・グループ、企業、アーバン・プランナー、そして新たな建築家が、都市レベルでそれをどのように緩和、あるいは調和していくかであろう。

関連サイト
http://www.sciarc.edu
南カリフォルニア建築大学のサイト。学校案内、新校舎の建設状態や生徒の作品などを紹介。
http://www.downtownla.com
Los Angeles Downtown Ceter Business Improvement District (DCBID)のサイト。ダウンタウンのイベントカレンダーや新しいプロジェクトの情報を紹介。
http://losangelesdowntown.com
ローカルの記者によるニュースを掲載。
http://www.staplecenter.com
ステープルセンターの公式サイト。イベント情報など。
http://www.disneyhall.org
ディズニーホールの模型写真と、市長、出資者などのメッセージが読める。


profile

宮内智久 Tomohisa Miyauchi
1976年 東京出身
2000年 南カリフォルニア建築大学建築学部(サイアーク)卒。
2001年 ハーバード大学大学院デザイン学部建築学II学科進学。


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