「インフラ・オーバー・インフラ サンチアゴの傷のヒーリング」
Luciano Basauri, Francisca Insulza (訳:安森亮雄)
チリの首都サンチアゴは掘り割り状のハイウェイによって二分されている。最近、このハイウェイの一部を覆う新しい都市プロジェクトが計画され、インフラが占める空間の活用を再考し、国有の土地の復旧によって都市を再編する契機として捉えられている。
インフラと都市開発
交通インフラのネットワークは都市の投機的な触媒装置として作用し、南北アメリカのインフラ事業は都市の拡大と発展を大きく方向づけてきた。特にラテンアメリカの場合、インフラへの国家的な投機は土地に価値を与えることで私的な開発の刺激となり、同時に将来の居住エリアの境界を定めるゾーニング装置としても働いてきた。これはサンチアゴの場合も決して例外ではない。ここ10年間の成長によって悪化したスプロール現象は、ハイウェイ・インフラの建設と発展の過程でなされた様々な決定の直接の結果といえる。
サンチアゴの両断
前述した現象のいい例は、60年代後半に建設された「南北ハイウェイ(注1)」である。このハイウェイの一部はサンチアゴから南北へと分岐する既存のハイウェイを連結した(fig1)。サンチアゴでは列車のネットワークが緩やかに東西を結んでいたが、自動車交通のシステムは連続的で効果的な南北軸を重視していなかった。この計画の目的は渋滞緩和のためのコネクションを作り出すことだったのだが、また同時に北アメリカでのハイウェイ建設のブームとその根底をなしていた政策を明らかに反映したものだった。つまり集団的でコスト高な鉄道交通を縮小し、より私的な車とトラック交通を奨励しようというものだ。実際のハイウェイの配置は、「最短の接続」の必要性と、価値が低下した国有の「処分可能な土地」の有効活用との兼ね合いによって、首都を二分する掘り割りとして実現した
(fig2)
(fig3)
(fig4)。
隔離とアイデンティティ
「南北ハイウェイ」の完成は、実際にサンチアゴを横断する交通の流れをスムーズにし、中心部から南北への直通のコリドーを作り出した。今日でも1日15万台の車が通り、サンチアゴにおける主要な南北のコネクションとなっている。その一方でこの交通量は、掘り割り状の断面と相まってハイウェイに隣接する地域をつなぐことを困難にしており、広大な非浸透性の境界
−都市を横断する線状のノーマンズ・ランド− を作り出した (fig5)。この空間的な隔離の利点をあえて挙げるとすれば、16世紀スペイン領時代の歴史的地区のいくつかが一旦ハイウェイによって分断されることで、その歴史的遺産を維持し強化できたことかもしれない(fig6)。これらの地域は、官庁地区、経済地区、ボヘミアン地区、大学地区など、それぞれ固有のプログラムと密接に関連したアイデンティティを作り出している
(fig7)
(fig8)。
以上のことをすべてを考慮すれば、明らにポジティブな結果よりネガティブな結果の方がずっと勝っている。基本的な事実は、ハイウェイが「切開された傷」を作り出し、現在までそれを癒す可能性が見つからないことである。実際、切れ目の両側を結びつけようとして長い間さまざまな試みがなされてきた。プログラムつきの歩行者の通り抜けや歩道橋の設置、あるいは隣接する見捨てられた土地を開発するイニシアチブ…、しかしこれらはことごとく失敗に終わっている。その原因の多くはハイウェイに隣接した土地が私有地であることである。大規模で長期にわたる事業は計画中には賃貸できないため、土地は空き地のままか一時的なプログラムを充てられた状態でとり残されている
(fig9)
(fig10)
(fig11)。またこのネガティブなインパクトはハイウェイの実際の建設地に限らず周辺の地域にまで及んでいるため、地区の保存といった利点は歴史地区を除いては機能せず、ハイウェイの存在は皮肉にも差別と貧困といった欠陥を増大させるだけである。ともあれ1979年に制定された法律によって郊外の再開発が解禁されたことによって、都心のハイウェイはサンチアゴの拡大に重要な役割を果たした(fig12)。
ヒーリングのプロセス、新しいイニシアチブ
現在、南北軸のための新しいプロジェクト注2が計画されている。ハイウェイの約1.5kmをまるごと覆ってプラットホームを架け、長い線状の新しい領域を作り出そうというものだ。このプロジェクトは官庁地区の再編と交通システムの改善を目指した広範な計画の一部として、長いあいだ悩まされてきた問題に対する抜本的な解決策となることが期待されており、大規模なインフラネットワークの根拠とその効果を再考する過程がひとつの転換期に来たことに対応している。プロジェクトはサンチアゴの歴史地区と官庁地区を隔てるハイウェイの一部に位置し、過去10年間に人口が急増した地区の空間的な隔離を解決することが主な目的である。この点でプラットホームは既存の地盤面をハイウェイの上部にまで持ち上げることで、失われた連続性を回復させるだろう(fig6)。
これらの地区は対策が必要というだけでなく、「失われた領域」の復旧はサンチアゴ中心部の更新、再編、高密化における継続的かつ必要に迫られた基本的ファクターとなっているのである。
グッドチャンス
国有の土地がほとんど無くなった現状においてインフラを覆うことは、利益志向の市場力学を越えうる場所を生みだす。新しい都市の大地を回復する計画は、私的な投機を誘導しつつ刺激することを可能にする。このイニシアチブは再び投機の問題を扱うが、拡大と成長ではなく、むしろ再利用、回復、高密化についての投機の問題なのである。不動産の論理と制御されないアーバニズムに陥った都市において、国と都市のプランナーはようやくパブリック向きの提案を生み出すツールを獲得しつつある。それはつまりインフラの上にインフラを作る可能性である。
注1:南北ハイウェイ
「南北ハイウェイ」とは、カナダ北部からチリのパタゴニアまで環太平洋(パシフィック・リム)沿いに延びる「パン・アメリカ・ハイウェイ」のうち、チリを横断する部分の俗称である。
注2:南北ハイウェイの新プロジェクト
新プロジェクトは、サンチアゴにおける最古の地区の維持と復旧を目指して、現在進行中のイニシアチブの一部をなしている。国土基盤省とサンチアゴ市のジョイントベンチャーの形をとっており、プロジェクトのスタディ段階では大学を含む多くの機関が調査に関わってきた。現在は実施計画と規制政策の決定の段階である。
profile
ルチアーノ・バサウリ
1972年、サンチアゴ(チリ)生まれ。
サンチアゴ中央大学において建築を学んだ後、ベルラーヘ・インスティテュート(オランダ)において建築学修士号取得。
オランダ建築博物館「Witte de Witte」展など、多くの展覧会に参加。
現在、アムステルダムにおいて設計活動中。
フランシスカ・インスルザ
1970年、ミシガン州アンアルボー生まれ。
サンチアゴ中央大学において建築を学んだ後、1998年オランダに渡り、ベルラーヘ・インスティテュート修士課程に入学。
「Mutations」(Actar社)において、ステファノ・ボエリ氏とともに「USE (Uncertain States of Europe)」のキュレーションとプロデュース。
現在、ベルラーヘ・インスティテュートにて、都市空間における圧縮とその使用のプロセスに関する修士制作に取り組んでいる。
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