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今回は柳志野氏によるイタリアのレポートである。地方自治、大聖年祭のための都市改造、狂牛病、エリカオーマン事件、情報環境の変化などのトピックがコンパクトに語られている。異国情緒をそそる状況はあまりなく、むしろ日本との類似点が感じられる興味深い内容だ。筆者が「バロックの勝利」展とテラーニの建築群を見るために、2年前にミラノ、コモ、トリノを訪れたとき、インターネット・カフェがほとんど見つからず、ミラノでようやく入ったそれは閑古鳥が鳴いているような状態だった。しかし、現在は「インターネットポイント」が増えているようだ。ちなみに、携帯電話の使用はすでに目立っていた。世界中で同じような風景が生まれつつあるのは確かだろう。情報化の波は歴史的な都市にも押し寄せている。
しかし、そもそもローマに総本山があるカソリックは、情報の巧みな利用者ではなかったか。キリスト教の生みだした最大のメディアは大聖堂である。文字通りに大きい。建築だけではなく、絵画や彫刻、そしてステンドグラスの発光する図像によって、文字を読めない当時の信者に訴えかけた。儀礼には音楽も動員される。今見ても息をのむような空間だから、当時は最高のスペクタクルだったのではないか。現在のハリウッド映画のようなものだろう。かつてヴィクトル・ユーゴーは、活版印刷術の普及によって、書物が重要なメディアとなり、大聖堂の地位が落ちることを指摘していた。もっとも、プロテスタントの方が本を使うことに熱心だったのであり、カソリックはむしろバロック芸術を推進し、教会を総合的なスペクタクルの空間に変えている。有名なメディア批評家のポール・ヴィリリオやマーシャル・マクルーハンも、熱心なカソリックの信者らしいが、これは偶然ではないだろう。
ただし、カソリックの情報空間は、聖職者が体系化され、一般信者との明快な差があり、ヒエラルキーの構造をもつ。情報は上からおりてくる。一方、プロテスタントは圧倒的な力によるメディアを否定し、教会を壮麗に飾ることよりも、単なる集会所とみなすことを重視した。神とのコミュニケーションも、聖職者を媒介するのではなく、個々の内なる対話として構想される。その結果、カソリックに比べ、ヒエラルキーは壊れる。しかし、聖書は絶対的な存在だ。言うまでもなく、現代の携帯電話やインターネットは、さらにヒエラルキーを解体し、新しいモデルを生みだしている。それは旧来の宗教がもつ情報空間も侵食するだろう。実際、イスラム教やユダヤ教がネットに危機感を抱き、なんらかの規制を考えているという報道があったと記憶している。だが、新しいメディアが新しい宗教と連携する可能性もあるし、古い宗教のシステムを変えるかもしれない。これは興味深い問題だと思う。
さて、先日イタリアで開催されたジェノバ・サミットは、厳戒体制の中、反グローバル化の激しい抗議運動が大きな注目を集めていた。サミット史上、初の死者がでたことでも記憶に新しい。世界の流れをシンクロさせるグローバル化か、地域の固有性を尊重するか。冷戦構造がなくなった後、超大国として君臨するアメリカの経済活動を警戒しながら、ヨーロッパ諸国は相互に共同する道を選んだ。日本はといえば、アメリカとヨーロッパの板挟みにあいながら、前者に追従している。最近は小泉首相がアジアを軽視していることが懸念されるし、同時にナショナリズム的な気配も強くなってきた。セーフガードの発動など、アジアの安い労働力と商品が国内に大量流入することを防ぐ動きも見逃せない。
ところで、グローバル化も、かつてローマ帝国がなしとげたことではないか。世界最初のインターナショナル・スタイルはローマ建築だろう。現在もヨーロッパ、アフリカ、中近東の各地にローマ時代の遺跡が残っている。ローマ帝国は、世界各地に同じような構造の植民都市をつくり、現地の未熟な労働力や良い石を確保できない場所の問題に影響されない方法で、同じような建築を大量生産した。当時のウィトルウィウスの建築書を読むと、強力なグローバル化とともに、各地の気候の違いなどから、建築の地域性も意識されている。アメリカは現在のローマだ。そう考えると、「MUTATIONS」のカタログで示されたように、レム・コールハースが古代ローマの都市のシステムに関心をもちはじめたのは当然といえるだろう。
profile
五十嵐太郎(Taro Igarashi)
1967年パリ生まれ。東京大学工学系大学院修了。博士(工学)。中部大学 工学部建築学科 講師。東京大学、東京芸術大学、日本女子大学、明治学院大学、大阪芸術大学、芝浦工業大学/非常勤講師。著書に『終わりの建築/始まりの(講談社)、
『近代の神々と建築』 (広済堂出版)。編著に『READINGS: 1建築の書物/都市の書 物』、『20世紀建築研究?INAX出版)、共著に『磯崎新の建築談義』(六耀社)な
ど。ギャラリー・間「空間から状況へ」展を監修。『日経アーキテクチュア』にて連 載中。ウェブサイト「cybermetric」で活動の軌跡を公開している。
URL=http://www.cybermetric.org/
<その他、連載中のウェブサイト>
10+1ウェブサイト「五十嵐太郎 Photo Archives」
URL=http://tenplusone.inax.co.jp/
online bookstore bk1 「サイエンス/テクノロジーサイト・建築」
URL=http://www.bk1.co.jp/
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