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都市レポートの1回目は、チューリッヒ在住の堀井氏によるメキシコ・ツアーである。ジジェク読みの堀井らしく、2つの異国を移動した実体験から、他者が抱く欲望と幻想のねじれが語られた。その幾つかのポイントを展開させてみたい。
まず、ヨーロッパ人から見たメキシコと東京が重なるという指摘である。主な理由は、いずれも都市が超過密だからだ。このエピソードで思い出されるのが、昨年、mvrdvが行うベニス・ビエンナーレの展示のために、そのスタッフとビデオ・アーティストのユルンが、筆者の家を訪問したことだ。mvrdvは世界の高密度都市における居住空間をリサーチしており、その対象としてやはりメキシコと東京を選んでいたのである。彼らの「メタシティ/データタウン」でも、メキシコと東京はデータのサンプルに挙がっていた。ちなみに、『A』という雑誌に、本でうめ尽くされた筆者の部屋が紹介されたことがきっかけで、この取材は実現された。そしてビデオ・アーティストは、問題の混雑した部屋に入ると、絶好の素材と感じたからなのか、「ビューティフル!」と発言し、丹念にカメラで撮影した。ただし、スイス人とオランダ人では、事情がちょっと違うかもしれない。オランダの場合は、よそ事ではなく、自分の国も過密の文化だと思っているからであり、かつてレム・コールハースがマンハッタンを分析したのも偶然ではない。
堀井氏が紹介する最後のシーンも興味深い。日本人は観光地で写 真ばかり撮っていると笑いながら、そのヨーロッパ人が同じように集団行動しつつ、カメラをのぞいてばかりだったという。筆者の新刊『終わりの建築/始まりの建築』(INAX出版)でも、これに関連するテーマを扱った。3章の「他者が欲望する黒船都市トーキョー」では、80年代バブル期の東京が西洋人にとって夢のような場所になっていたことを論じている。彼らは東京をすべてが許されるカオスの世界首都とみなし、母国では不可能なデザインを簡単に実現させた。スタルクの奇妙なかたちは、夢の形象化にほかならない。しかし、東京はそうした西洋が欲望する東京のイメージを引き受けていた。一方で西洋が東京やアジアという他者にカオスを押し付けるのは、自分たちがいまだ秩序の世界に生きていると信じたいがためである。西洋にも、無機質なニュータウンや荒んだ風景は存在することを隠ぺいするために、他者にその属性を割り当てるのだ。だから、テオティワカンの西洋人は、自分が日本人の物まねになっていることを忘れるために、日本人を笑うしかないのである。
堀井氏が引率して、ETH(チューリッヒ連邦工科大学)の学生を東京に連れてくるツアーは、今年の5月頃に実施するという。他者の現実を完全に理解することは不可能である。しかし、他者の現実に近づくことは可能であるからこそ、ツアーのプログラムには工夫すべき余地が多く残されているはずだ。どんな東京ツアーが実現されるか、楽しみである。
筆者がナビゲートするシリーズでは、都市と他者の問題を扱う。ここ数年、ずっと宗教と建築・都市の問題を考えていたことから、他者とは何かに興味を持ちはじめたからである。他者論は、様々に論点を広げられると思う。例えば、都市内の移民や民族の紛争。今回のように、オリエンタリズム的な切り口もあるだろう。情報化による空間と階級の再編成は、新たな他者と差別
を生む。そして都市を脅かす犯罪や災害といったセキュリティの問題である。実は、安森氏がナビゲートする都市レポートの1回目の南アフリカ紹介は、ほとんど僕の問題意識と重なっていた。詳しくは、『終わりの建築/始まりの建築』に収録された「アポカリプスの都市」や「ミレニアムの都市」を読まれたい。テーマパークは90年代に注目された新しい都市モデルである。筆者の考えでは、管理された人工環境、キッチュな建築の増殖、観光地の歴史保存という3つの方向性が指摘しうる。こうした現象の背後には、公共性の衰退が認められるだろう。
しかし、現在の日本のように、戦前のモデルを賛美し、右翼化する流れは、未来につながるとは思えない。
残念ながら、一億総中流化で弛緩しきっていた日本は他者への想像力に乏しかったが、もはや激動する21世紀には、この問題を避けて通るわけにはいかない。だからこそ、今他者論が問われるべきなのである。
profile
五十嵐太郎(Taro Igarashi)
1967年パリ生まれ。東京大学工学系大学院修了。博士(工学)。中部大学 工学部建築学科 講師。東京大学、東京芸術大学、日本女子大学、明治学院大学、大阪芸術大学、芝浦工業大学/非常勤講師。著書に『終わりの建築/始まりの(講談社)、
『近代の神々と建築』 (広済堂出版)。編著に『READINGS: 1建築の書物/都市の書 物』、『20世紀建築研究?INAX出版)、共著に『磯崎新の建築談義』(六耀社)な
ど。ギャラリー・間「空間から状況へ」展を監修。『日経アーキテクチュア』にて連 載中。ウェブサイト「cybermetric」で活動の軌跡を公開している。
URL=http://www.cybermetric.org/
<その他、連載中のウェブサイト>
10+1ウェブサイト「五十嵐太郎 Photo Archives」
URL=http://tenplusone.inax.co.jp/
online bookstore bk1 「サイエンス/テクノロジーサイト・建築」
URL=http://www.bk1.co.jp/
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