2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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小兵たちの意地
ヨーロッパの小国は、少ない予算ながらも分かりやすいテーマ設定で成功している所が多かった。そんな小国のパビリオンを6つと、イタリア館における招待団体の展示を1つ紹介しよう。
 
ベルギー館
テーマ:La beaute de l’ordinaire
出展者:Label Architecture
 

表題は「日常風景の美しさ」で、その日常性を強調するために非現実的な空間が用意された。ロの字型の廊下の四隅に斜めにはめられた鏡の効果で、永遠に続く黒い廊下。そして真っ白で現実離れした中庭。
展示は、固定カメラで撮った郊外住宅や運河の映像を淡々と見せるというもの。何気ない路上の風景に美を認める姿勢は、都市を再考する第一歩として評価したい。しかし、それが路上観察のような深みと人間味を獲得するには、まだまだ時間がかかりそうである。

 
 
オランダ館
テーマ:Seeing is knowing
出展者:Netherlands Architecture Institute
 

毎回作り込むことで有名なオランダが、今回はあっさりした表現で多くの人をがっかりさせたようである。とはいえ、表面を茶色にコーティングしたベニヤ板、フェルト生地による額装など、材料の使い方には光るものがあった。
展示は1881年から現代に至る、同国の都市計画パースを時系列に並べたもの。未来への提言に欠けるものの、都市という怪物に歴史的な視点で向き合おうという姿勢はとても健全だと思う。そして歴史好きにとっては、H.P. ベルラーヘやM. デ・クラークといったアムステルダム派の巨匠のドローイングが拝める絶好の機会といえる。ベルラーヘのとぼけた図面、面積や容積の計算が書き込まれたデ・クラークの生々しいスケッチを見て、ぼくは二人を等身大に感じた。

 
 
スイス館
テーマ:Elliptic City
出展者:Bernard Tschumi
 

カリブ海に浮かぶドミニカ島にイメージ中の、小さな最先端の「楕円都市」がテーマ。軸線もランドマークもない不定形な計画は、ひと昔前の秩序だった都市計画に対する反論なのだろうか。モチーフの楕円形は周囲の島々にヒントを得たようだが、この形でなければならない必然性が何か、よく分からなかった。
B. チュミの計画に通底する子供っぽい理屈、積木のような無邪気な形は楽しいと思う。しかし、ラ・ヴィレット公園をはじめ実現作にはどこか空虚な感じが漂う。「楕円都市」はそんな欠点を克服した傑作となりえるのだろうか。

 
 
オーストリア館
テーマ:City = Shape Space Net
出展者:Hans Hollein ほか
 

H. ホライン、F. キースラー、G. アイシンガーのグループ展という構成に、ぼくはちょっとがっくりきた。ホラインを脅かす若手は、どうやら育ってきていないらしい。そのホラインが出したのは1964年発表の「空母都市」。空母都市の巨大模型の横でポーズを取るホラインは幸せそうだったが、あの幻想的な絵がプラモデルのような味気ない実体に化けてしまったのは残念だった。ちなみに角棒と板でできたキースラーの空間彫刻「RAUM」は緊張感がすばらしく、会場にかかっていたピアノの現代音楽ととてもよくマッチしていた。古典的な調和を外した動的なバランスと、ピアノの不協和音とは、よく似ているのかもしれない。

 
 
ポーランド館
テーマ:transfer
出展者:Jaroslaw Kozakiewicz
 

ワルシャワ市内を貫くチューブ状の遊歩道計画。他とは毛色の違う土木的な提案を、シンプルに見せていたのが印象に残った。展示は小さな模型と、壁に映された巨大なCGの合成映像のみ。この軽やかで透き通るような構造体を、本当に実現できるのなら何も言うことはないのだが・・・。

 
 
ハンガリー館
テーマ:re-orient
出展者:Attila Nemes ほか
 

中国製の安価な小物を使って、芸術的な空間をつくるという風変わりな実験。ペンギンが鈴なりになったスタンド、スピーカーのへばりついた屏風、ミニ電動カーが並ぶ壁など、オタク好みの小物を使いながら、全く新しい世界を構築していたのが面白かった。スピーカーやミニカーがときおり静寂を破って音を立てるのも、まるで鹿おどしのような趣。全体テーマを踏み外しているのが難点だが、アートとしては一番の出来だったと思う。

 
 
イタリア館(招待展示)
テーマ:C on Cities
出展者:C Photo Magazine (London)
 

パビリオンの外観を飾る上海の鳥瞰写真をはじめ、不思議な都市風景の写真がずらっと並んで楽しかった。その多くは、ごちゃごちゃに積み重なった家、タイヤ捨て場など、これまで醜いとされてきた風景の面白さを再認識させるもの。そして可笑しかったのは、都会人の不自由な生きざまを皮肉ったRobert & Shana ParkeHarrison の創作写真である。木片をつなげて湖に道を作る会社員風の男は、理屈優先で練られた都市計画を象徴しているように見えた。

※Robert & Shana ParkeHarrison の写真はこのサイトで詳細が見られます。

さて、この連載も残すところあと2回となった。最後は日本館の展示内容を振り返りながら、建築と都市の未来について考えることにしよう。

 
 
(第11回へつづく。敬称略)
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