2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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遠き国々の悲哀
イタリアから遠くはなれた国々は大きな不利を背負って建築展に参加している。展示物の輸送にかかる時間、輸出品扱いで容赦なくむしり取られる税金、スタッフの旅費や滞在費、等々・・・。そんな悪条件にもめげず、考えさせる展示をしていた5館を、以下に紹介しよう。
 
米国館
テーマ:After the Flood
出展者:Architectural Record ほか
 

前庭に並ぶ巨大ヘチマが異彩を放っていた米国館。テーマは、昨年ニューオリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」の洪水被害と復興住宅コンペだという。聞けば、ヘチマは水を吸うと巨大化するスポンジで、堤防の決壊を防ぐものらしい。土嚢より比重の小さいものが洪水に耐えるとは思えないのだが・・・。
あの当時、ぼくはニュース映像を見て恐怖に震えたのを覚えている。ところが米国館の展示にそのリアリティは感じられなかった。芸術的な災害写真、気象衛星画像は被災民を捨象していたし、コンペ作品の多くも、ヘチマのように楽観的だったり、豪華で現実離れしていたからである。
洪水の危険性は以前から指摘されており、対策も可能だったのだから、これは天災ではなく人災と呼ぶべきかもしれない。為政者が手を抜けば、都市は多くの人々を墓場に送り込む凶器にもなりえるのだと、洪水は教えてくれた。そんな政府への痛烈な皮肉で面白かったのが、水に浮かぶキューブ状住宅の提案である。「自分の身は自分で守る」というアメリカ的発想は、これから新しい都市形態を生み出していくのだろうか。

 
 
カナダ館
テーマ:SweaterLodge
出展者:Pechet and Robb Studio
 

ペットボトルを再生してできた巨大な一枚のセーターが館内を覆い、テントのような雰囲気を醸しだす。中に置かれた自転車をこぐと、前方の画面に映るペットボトルが動いて、環境の大切さを訴える。主催者は言う。「セーターは展覧会終了後、帽子やマフラーに加工され、ゴミが出ない」と。
環境への負荷を考えずに、建築や都市をつくれる時代は終わった。そしてカナダ館を見ていると、「エコロジー」という合言葉が、デザイン批判をかわす新しい免罪符となるような気がしてならない。味気ない町並みを広めた20世紀の建築家たちが、「機能」を標榜して非難を逃れたように・・・。

 
 
ウルグアイ館
テーマ:The Montevideo Seminars
出展者:Udelar
 

ブラジル、ベネズエラなど南米勢の多くが手抜きの展示に終始するなか、唯一見ごたえのあったのがウルグアイ館である。メインは9年前から続いているモンテビデオ建築ワークショップの紹介で、講師陣の中には原広司の顔もあった。内容は、都市の文脈を読み取り、適切な再開発を講師と学生がグループで計画するというオーソドックスなもの。
むしろ面白かったのは、奥でひっそりと行われていたE. ディエステ(Eladio Dieste)の回顧展である。エンジニアのディエステは平煉瓦を用いたシェル屋根の名手で、E. トロハやF. キャンデラに匹敵する軽快で詩的な作品を遺している。解説パネルと絵葉書のみという質素な展示ながら、知らない人には発見の楽しみがあったのではないだろうか。ちなみに写真はa+u誌が特集(2003.8)のために撮りおろしたもので、日本のメディアの情報力には改めて感心させられた。

 
 
韓国館
テーマ:Perma n stant
出展者:Wook Choiほか
 

5人の建築家がバラバラの展示をしていたのは残念だったが、密度ではピカ一だった韓国館。カラフルな都市計画模型やツル草のような「家」の模型が並ぶなか、「カタログ・シティ」と題した地味な展示が逆に目をひいた。チラシやモデルハウスを駆使して住宅を売るのは日本の専売特許かと思いきや、韓国でもそれが大いに流行しているらしい。仕上げや間取りを決められるマンションが人気で、建築家よりも美人の売り子の方が売り上げを左右するという現実。アジアにおける建築家の存在意義は、これからますます小さくなっていくのだろうか。

 
 
イスラエル館
テーマ:Life Saver
出展者:Tula Amir ほか
 

イスラエルの歴史は、迫害の歴史であり、聖地エルサレムを巡る周辺国との紛争の歴史である。今回の展示テーマに選ばれたのは、そんな過去を記念する建造物や慰霊碑。巧みな模型の演出、独特の宗教性のおかげで、同館の展示は最も味わい深いものの一つだった。
ちなみにイスラエルは中東からの唯一の出展国で、アフリカからもエジプトと南アフリカの2か国しか参加していない。これらの地域のイスラム諸国が加わり、建築展がより多様で楽しいものになる日を心待ちにしたい。

次回はパンチのきいた小国の展示をレポートして、各国館の紹介を締めくくることにしよう。

 
 
(第10回へつづく。敬称略)
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