2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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欧州列強国の示した標準(2)
スペイン館
テーマ:Spain [f.] we, the cities
出展者:Acebo × Alonsoほか
 

人の顔が見えない都市展が大半を占める中、人の顔を前面に出した展示でひときわ目をひいたのがスペイン館である。無数の液晶画面が立ち並び、そこに映る等身大の人々が、観客に向って都市を語る。しかも登場人物はみな、女性。
男の大半が昼間、オフィスに閉じこもって働いている現実を考えると、都市生活の主役は女なのだという主張には、説得力がある。そして幅のある人選もうまい。自作を披露する女性建築家、所属事務所の作品を語る建築家やエンジニアといった作る側の人間だけでなく、図書館館長などの施設管理者、そして都市施設の利用者である市民や移民までもが登場するのである。
何十人もの女性の声に耳を傾けた結果、浮かびあがってくる具体的な方向性が何かといえば、ぼくにはよく分からなかった。しかし、「女の声を聞こう」という姿勢だけでも、都市を考える上で大きな一歩にはちがいない。女性を主役に立てた政治的な戦略、思わず中を覗きたくなる入口、洗練された展示空間。すべてが見事にはまっていて、金獅子賞に最も近いのは、このスペイン館かもしれない。

 
 
北欧三国館
テーマ:Arctic Cities
出展者:Museum of Finnish Architecture ほか
 

フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの三国は共同でひとつのパビリオンを運営しており、その展示空間はイタリア館に次いで広い。世界有数の豊かな国がチームを組んでいるのだから、力の入れようも他の大国以上といっていい。
今年はフィンランドがまとめ役で、主題は「北極圏の都市」。主要都市のほとんどが南のバルト海に面していることを考えると、北方の都市に着目したのは面白い発想だといえる。近年、北は石油採掘の基地として発展しており、過酷な環境の中に快適な住まいやまちをつくることが、重要なテーマとなっているのである。
展示作品はどれも素直で上品なものばかり、そして開放的な展示構成も、全館で一、ニを争う気持のよさだった。ただ残念だったのは、北極らしい新しい形なり暮らし方なりが、あまり見えてこなかったこと。北海道から毛綱モン太(毅曠)の「反住器」が生まれたように、北極圏からもいつかインパクトあふれる新しい提案が生まれることを、期待したい。

 
 
デンマーク館
テーマ:Co-evolution
出展者:CEBRAほか
 

デンマークといえば北の小国だが、今回は躍進著しい中国との共催で大国化し、派手な展示で目立っていた。最近の中国における建設需要はすさまじく、目新しいデザインを求めてヨーロッパの有名建築家を呼ぶことも多いから、この種の共催展は建築界の実情を反映したものといっていい。
内容は、北京、西安、重慶、上海の四都市に対して、デンマークの建築家と地元の大学がタッグを組んで都市計画を行うというもの。デンマークが抑制のきいた大人のデザインを中国にもたらすのかと思いきや、さにあらず。「環境に配慮した」という謳い文句以外にデンマークの香りはなく、いかにも中国で流行りそうな、自己主張の強い無秩序な計画が並んでいたのである。ヨーロッパの建築家はふだん厳しい規制の中で生きているだけに、羽目をはずすととんでもないことになるらしい。中国の建築と都市の未来がどうなるのか、本当に心配である。

 
 
ロシア館
テーマ:Inhabited Locality
出展者:Alexander Brodsky
 

ヨーロッパの大国の中で唯一、破竹の勢いで経済成長を続けるロシア。ところがその展示はとても質素で、暗くせつないものだった。
それは団地に生きる人々の視線を描いたもので、窓から見える退屈な冬の景色、同じ形の箱に住まう無数の人々の悲哀、そして箱の中で育まれる狂気などが、痛々しいリアリティをもって伝わってきた。音も言葉もなく、ただ映像と抽象的な模型がポツンポツンとあるだけの空間。地味なのに詩的な雰囲気が漂っていて、この館に魅せられた人は意外に多い。都市の未来というと華やかなことばかり考えがちだが、団地という足元の現実を浮かれずに見つめるロシアから、学ぶべきことは多い。

お金と時間をつぎこんでも、必ずしも展示の質につながらないのが難しいところだが、それでも大国の展示には何かと考えさせられるものが多かった。
次回のレポートでは、遠方から不利を背負って参加している国々の頑張りを見ていくことにしよう。

 
 
(第9回へつづく。敬称略)
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