2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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欧州列強国の示した標準(1)

会場全体を見渡して感じたことは、ヨーロッパの大国はやはりお金と時間をかけてものをつくっているということである。
資金的にも地理的にも有利な国々が、どんなレベルの見本を示してくれたのか。以下、列強国の展示内容を見てみよう。

 
フランス館
テーマ:Metavilla, Metacite
出展者:Patrick Bouchain
 

学園祭的なノリで、出展者自身が一番楽しんでいる館といえば、フランス館をおいて他にあるまい。本国からやってきた総勢20人強のスタッフが、ここで寝食を共にし、暮らしぶりを披露することが展示の目的なのだから。
キッチンや仕事場、寝棚は建物の中に足場で組まれ、その足場はさらに屋上にのびて、サウナや露天風呂、展望塔に通じるという充実した住まい。スタッフだけでなく観客もこれらの施設の恩恵にあずかることができたから、フランス館はさながらジャルディーニ会場のオアシスであった。ぼく自身、料理長に夕食を作ってもらったり風呂を浴びたりと、ここには楽しい思い出しかない。しかし、フランス館の都市、建築的意義は何かと問われれば、答えに窮してしまうのである。
風呂や寝棚という発想が、カプセルホテルを超えていない、というのがひとつ。そしてこの共同住宅が、休暇をすごす民宿でしかない、というのがひとつ。仕事と家庭のある、日常の都市生活に対して、フランス館は何もヒントを与えてくれないのである。
ぼくがそう言って不満をぶつけると、スタッフの一人はこう語ってくれた。「設計者、施工者、施主の三者が乖離して久しい。ぼくらは原点に帰って三役を同時にこなすことで、それぞれの距離を縮めるための方法を探りたいのだ」と。二ヶ月の展示期間を終えた日に、何か有意義な答えが得られていることを祈りたい。

 
 
イギリス館
テーマ:Echo City
出展者:The Designers Republicほか
 

建物の正面階段を上がると、受付嬢は「裏へ回れ」とのたまった。よく見ると裏口の方向を示す矢印が、いくつもぶら下がっている。しかし裏口から人を入れる必然性も、裏口へ回りたくなるような仕掛けも用意せずに、ただ裏へ回れというのは怠慢ではないだろうか。
拍子抜けだったのはメインの展示空間で、テーブルの上に積木が置かれていて、それを好きなように並べ替えろという。動かすと、その様子が部屋の壁に大きく映写されるというただそれだけの内容に、ぼくはちょっと虚ろな「反響」を感じた。
逆に一番賑わっていたのは、オタク趣味の部屋。壁にはたくさんの引き出しが据えつけられ、分類タグのついたさまざまなフィギュアが顔をのぞかせている。そして机の上には大量のスナップ写真とはさみが用意され、写真を好きなように切り抜いて壁に貼れという。オタクの部屋らしきものを、烏合の観客の手で再現することに意味があるとは正直思えない。しかしオタクが海外でも市民権を得はじめたことは、素直に喜んでもいいのではないだろうか。

 
 
ドイツ館
テーマ:Convertible City
出展者:Wiel Arets Architect and Associatesほか
 

メインの工作物は屋上へとのびる真紅の階段で、あれを上ると何があるのか、ぼくは準備の最中から気になってしょうがなかった。ところがいざ公開となり、階段をかけ上がると、だだっ広い毛氈敷きの空間に、ただパラソルと縁台が置かれているだけだった。とんでもない労力をかけて屋上を展望台に「転換」した意味は、いったい何だったのだろうか。フランス館のサウナのように、何か観客を喜ばせる装置があったならと思う。
ドイツ館が主題に選んだのは、屋上への増築や仮設構造物といったフレキシブルで環境負荷の小さい建築である。それで30人を超える建築家のプロジェクトが集まったのだから、この手の建物は時代の潮流を示すものなのだろう。面白かったのは展示の方法で、照明を内蔵したテーブルの中に模型や解説を仕込み、それに開閉するフタをつけることで、観客の関心をひくことに成功していた。「Convertible Box」と主催者が呼ぶこの箱は、展示の常識を「転換」するほどではないにしても、展示の常套手段の一つとなりそうである。

 
 
ヴェネチア館
テーマ:Cantiere d’autore
出展者:Olivo Barbieriほか
 

ジャルディーニ会場の中で群を抜いて大きなイタリア館は、実はイタリア代表の居城ではない。そこは招待団体が腕を競う舞台であって、国としてのイタリアの出展はヴェネチア館でひっそりと行われている。
主題は「建設現場の風景」で、他館にはない具体的な切り口で都市を扱っているのに好感を覚えた。展示の中心はZ. ハディドの設計で現在建設中の19世紀美術館の現場。
そして構造表現主義の巨匠、P.L. ネルヴィの作品の現場写真がきちんと整理されて並んでいたのは、個人的には面白かった。しかしイタリア館に予算の大半を持っていかれるせいか、どこか手を抜いた魅せる気のない展示だったのは残念だった。現場に生きる人々の息づかいが聞こえれば、都市というものをもっとリアルに感じられたのに、と思う。

 
 
(第8回へつづく。敬称略)
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