2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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縄文のドーム

縄文建築団にとって4日連続の長期作業というのは
これまでに例がなく、自称「老人」たちの体が終わり
までもつかどうか、大いに不安視されていた。
事実、長老である赤瀬川原平などは昼食のあとに
欠かさず午睡をとっていたから、そうとう肉体的に
キツかったことは間違いない。

それでも全員が長丁場を乗り切れたのは、村人たちの
たくみな役割分担のおかげといっていい。
他の者たちが暴れる竹と格闘している間、赤瀬川は
会場の隅に自分の居場所を見つけていた。彼はそこに
平積みされた板材の上にチョコンと腰掛け、竹を縛り
つけるための針金のより線を延々とつくり続けたので
ある。
赤瀬川のまわりには「老人」仲間の南伸坊や女性たち
が自然に集ってきて、しまいには家内仕事の一部隊と
してフル回転していたから、村の柔軟性はなかなかの
ものだったといえよう。

こうした分業体制のおかげで竹のドームは実に手際
よく組みあがり、本隊が現場入りしたその日の夕方
には完成したのだが、その次に待ちかまえていたのは
とんでもなく手間のかかる作業だった。
それは竹の骨組を利用してワラ縄をセーターのように
編みこむという前代未聞の仕上げで、しかも仮組みの
際に十分な実験をしていなかったために、作業手順を
イチから開発する必要があった。

現場で何か新しいことを試すとき、小心者のぼくは
目立たない裏側の場所を選ぶのが常である。
ところが藤森はといえば、会場の入口に近い表側に
陣取ってぐるぐる縄を巻きつけ始めるのだから面白い。
なぜそんなに大胆なことをするのか、不思議に思って
理由を聞くと、

「この方が覚悟が据わっていい」

という返事がかえってきて、なるほどとぼくは膝を
たたいた。藤森建築の土くさい迫力やトボケた味は、
どちらもこの思い切りの良さから来ているに違いない。
後になって見てみると、記念すべき最初の編み目は
仕事に慣れてきた周辺よりもちょっとたるんでいて、
いかにも素人の手の痕跡という感じがしておかし
かった。

さて、縄で竹カゴの目を詰めるのは、内部に入る光を
減らしてスライド上映に適当な暗さを確保するという
機能的な理由のほかに、実はもうひとつ重要な意味が
あった。
竹を竹のまま仕上げとして表現するのは安易な日本
趣味ととられかねないから、縄で竹を隠してしまおう
というわけである。

ワラ縄は日本古来の自然素材でありながら、ふつう
建物の仕上げに用いられることはないから、伝統建築
という釈迦の掌にとらえられる恐れがない。
衝動のおもむくままに建築をつくっているようでいて、
実はこうした計算を随所に織り込んでいるところが
藤森の巧いところで、さすがはプロの歴史家だと思う。
しかも縄の編み模様のドームは、縄文とかけた壮大な
洒落でもあるのだから、本当にニクい。

藤森が先頭に立って二人一組の作業手順を開発すると、
それを間近で見ていた何人かによって次々に技術が
伝達され、またたく間にわらわらと大人数での縄巻き
が始まった。
400以上あるマス目をひとつずつ埋めていくのは確かに
大変な仕事だったが、不思議と気分は軽かった。
最初のころは作業のやり方を改良したり、最適な縄の
長さを探したりする喜びがあったし、慣れたら慣れた
で相方やまわりの人たちとおしゃべりをする余裕が
出てきて、飽きるということがなかった。

ひとしきり仕事をしては、休んでお茶を飲み、また
ひとふんばり縄を巻いては、まかないの特製ラーメン
をすすり、という具合に時間は淡々と流れ、まるで
田植えでもしているような感じがした。
そんな調子で本隊の2日目が過ぎ、3日目の昼になる
と、少しずつ完成の時が近づいてくるのが分かった。
そしてそれは、日本からやってきた訪問者の多くが、
ぼくたちと一緒に汗を流してくれたおかげでもあった。

3日目の夕方、写真家の増田彰久がやってきたときは
ドームにまだ穴が多く開いており、そこから路上の
メンバーが顔を出したユーモラスな記念写真を撮った
ほどだった。
その後、ふつうなら作業には手を出さないという増田
がシャツを汗だくにして縄を巻いてくれたのだから、
ぼくらの仕事はよほど遅れて見えたに違いない。

こうした好意のおかげで、その日の終わりにはマス目
がずいぶんと縄で埋まり、クジラのような形をした
不思議な生き物がぬっと姿をあらわした。
その鼻先をポンポン叩きながら、ぼくは奴にそっと
つぶやくのだった。

「お前も幸せもんやな。あと1日、がんばろな」

それにしても、準備の話が長くなりすぎたようだ。
最後の1日は軽く流して、次回の途中からはオープ
ニングの模様をお伝えすることにしよう。

(第5回へつづく。敬称略)

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針金をより線に加工する部隊。
横方向の竹を中腹まで組んだところで
一服する首脳陣。
ドーム上部の竹のしばりつけ作業。
出入口まわりや端部の最終調整。
最初の縄は藤森自らの手によって
編まれた。
二人一組で行う効率的な作業手順により、
市松模様に縄が編まれていく。
マス目の形が変則的な部分は藤森が率先して編み、
最も粗い仕上げとなった。
写真家の増田彰久のリクエストに応えて、
ポーズをとる路上観察のメンバーたち。
左より松田哲、林丈ニ、藤森、赤瀬川原平、南伸坊。
にじり口まわりの特殊な部分を仕上げる
赤瀬川と南の名人コンビ。
オープニングまであと1日を残し、ようやく
完成が近づいた縄文のドーム。
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