2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
ヴェネチア・ビエンナーレ建築展レポート HOME
そして、縄文建築団がやってきた

展示の実施設計を担当する大嶋信道とともに、ぼくは
縄文建築団 (※1) の到着より2日早くヴェネチア入り
することになった。2日間で床の籐ゴザ敷きを終え、
竹のドーム組みをすぐに始められる状態で本隊を迎え
ようというわけである。

籐ゴザというのは、家具やカゴでおなじみの籐芯では
なく、籐の皮を切り割いてつないだもので、竹に似て
かなり固い。
15メートル四方の日本館に対し、籐ゴザの大きさは
4メートル角なので、都合16枚のゴザを敷きつめる
ことになる。そのうち数枚は厚さの変化する風車状の
壁に合わせてカッターで切り抜く必要があり、それは
体力と神経を消耗する長くつらい仕事となった。

この重労働を、イタリア人のバイト学生3人に加えて、
国際交流基金のスタッフ2人と現地コーディネーター
1人が手伝ってくれたおかげで、2日目の夕方には
なんとかゴザ敷きを終えることができた。
その間、責任者である大嶋は完璧を期して切り直しの
作業をすることをいとわず、しかもみなの先頭に立って
朝早くから晩遅くまで働いたのだから、さすがは藤森の
右腕である。
その大嶋に負けじと頑張った代償なのか、ぼくの右肩は
鉛のように重く、なんだか苦行僧にでもなったような
晴れない気分だった。あの調子で仕事が続いていれば、
ぼくはひょっとしたら脱落していたかもしれない。

ところが翌朝、縄文建築団の中心メンバーが現場に
到着すると、仕事のリズムは一変した。
藤森は籐ゴザの敷かれた館内を見てしばし満悦したか
と思えば、竹ドームの土台となる木片が並べられて
いるのを見つけ、さっそくそれを組み立てようと
言って手をあげた。
そしてインパクトドライバーをつかむと、一分の躊躇
もなく木片をぎゅんぎゅんビスで留めはじめたので
ある。

細心な大嶋とちがって、藤森は少々のミスはまったく
気にしないし、間違ったからといってそれをやり直す
ということを基本的にしない。藤森の留めた木片は
ところどころ向きや番号が違っていたが、

「どうせ似たようなもんだから、いいんだよ」

といってまるで気にかける様子がない。
頭領みずからが率先して間違っているのだから、手下
のぼくたちはずいぶんと気楽で、昨日までの苦行僧
気分はすっかりどこかへ蒸発してしまった。

一度日本で仮組みを終えているということもあって
作業のペースは速く心地よく、巨大な竹のカゴは
あれよあれよという間にその輪郭を現していった。
そして土台から立ち上がる竹骨がほぼ組みあがった
ところでお昼休みとなったが、そこでもう一つの驚き
が待ちかまえていた。

日本館へのアプローチの途中にある丸い踊り場が、
なんと宴席に化けていたのである。

縄文建築団の女性陣が用意してくれた海や山の幸を
前に、ぼくは思わずワーイと声をあげた。建築団が
武骨な男たちだけの集まりではなく、心配りの細やか
な女たちに支えられていることを、このときほど
うれしく感じたことはない。

ほっこり美味しいきのこの炊込みごはんをいただき
ながら、ぼくはふと、縄文建築団とは幻想の村落の
ようなものかも知れない、と思った。
ふだん離れ離れで暮らしているという意味で、この
縄文村に「村」という形はない。しかし村の建設行事
があるたびに集い、野蛮な男も器用な男も、女も老人
も、誰もが自分にふさわしい役割を演じつつ建設活動
に貢献するという意味で、これほど実態のともなった
村も珍しいのではないだろうか。

半時ほどして、ちゃぶ台の上のものがすっかり平らげ
られると、今度はお煎茶を冷水でいれる準備が始まった
ので、ぼくは再びたまげてしまった。
竣工の期日が迫っているにもかかわらず、お茶がしみ
出るのを待ちながら、ゆっくり話をしようというので
ある。この人生を楽しもうという心の余裕こそが、他の
村にはない縄文村の魅力であることは間違いない。

この奇妙な儀式を見て、他館の連中がわらわらと茶を
飲みにやって来るのではないかと言ってみんなで笑った
のだが、どこの館も余裕がないのか、時折けげんな視線
を感じることはあっても、ついにぼくらの宴席に加わる
者はいなかった。

ぼくは三服目の、ほのかに涼しい味のするお煎茶を
すすりながら、ここの村人でいられることをつくづく
幸せだと思った。
そして茶碗の底に残る最後の一滴を飲みほして立ち
上がると、足に再び元気がみなぎるのを感じた。

※1 縄文建築団
赤瀬川原平の自邸「ニラハウス」の工事をきっかけに
結成された素人施工集団のこと。路上観察のメンバー
を中心に、その友人や家族、藤森研究室の学生などが
参加して重要な仕上げ作業を行う。


(第4回へつづく。敬称略)

Previous Next
作業開始前。
籐ゴザの切り抜き作業。
籐ゴザの敷きつめ作業。
床へは両面テープで接着している。
竹ドームの土台構築作業。
竹骨と土台との固定部ディテール。
固定には針金とビスの両方を用いている。
主骨の固定作業。
輪郭を現した竹ドーム。
昼餉の後にふるまわれたお煎茶。
Copyright (c) 2006 tnprobe.com All Rights Reserved. このページのトップへ