2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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都市。建築と社会

アルセナーレ会場で行われたビエンナーレのメイン展示は、世界の大都市(圏)を多様な観点でプロファイルし、世界中で起こっている都市の変容について展望を与えようとするものである。リッキーとLSEのスタッフが中心となり、各都市のパートナーの協力の下、まとめられた。私もこの展示に東京のパートナーとして携わった一人である。ここで取り上げられるのは、ロンドン、バルセロナ、ベルリン、ミラノとトリノ、ヨハネスブルク、カイロ、イスタンブール、ニューヨーク、ロサンゼルス、サン・パウロ、ボゴタ、メキシコ・シティ、カラカス、上海、ムンバイ、そして東京の16都市圏である。

会場はかつて造船所であった細長い建物。全長300メートルに達するこの会場で大陸ごとに各都市のプロファイルが展示される。300メートルの世界一周の間、ところどころで小休止のようにテーマ展示が挿入される。各都市の特徴的な公共空間を24時間定点撮影した映像や、都市交通のアクセシビリティを比較する画像などのテーマ展示が見られた。

公共空間の24時間映像は、たとえば東京は渋谷駅前交差点であるが、各都市の生活が垣間見えて見飽きない。選ばれた公共空間の性質はさまざまで、人の密度や1日のうちの賑わいの波はそれぞれ異なる。しかし、行き交いあるいは留まる人々の様子はどの都市でも意外なほど身近な印象があり、グローバル化した現代都市の日常生活は私たちの日常のすぐ傍らにあるということをあらためて実感する。

テーマ展示の中でも、各都市の人口密度を立ち上げた模型は、迫力があった。上海やムンバイのそそり立つ人口模型に圧倒され、他のヨーロッパ都市とは一線を画すバルセロナ市街の高密さや東京のピークがそれほど高くないことをあらためて発見する。統計データのグラフやGIS(※1)的な表現がベースになっている展示の中で、異なる表現の可能性を探っていたことがわかる。

さて、各都市は、空間的・社会的データ、都市の日常、都市にインパクトを与えるプロジェクトという観点から多角的にプロファイルされる。たとえば、農村から仕事を求めて人が流れ込むカイロでは、780万の人口のうち60%の人々が不法占拠状態で居住し、一人当たり1平米のオープンスペースしかもたない。この過密都市の生活環境を緩和するために、500年来のゴミ捨て場を公園に生まれ変わらせるプロジェクトが1990年代に進められた。これがきっかけとなって周辺地区の環境改善が進みつつある。写真と映像と音声で、市場の雑踏の賑わいや、みっちり建て込んだ茶色い建物群の屋上という屋上に一斉に同じ向きを向いたパラボラアンテナが並んでいる風景が展示される。

カイロで示された人口やオープンスペース面積など統計データの多用は、都市の状況の量的な把握そして世界の諸都市の比較を可能にする。しかし数量を示すこと自体が目的なのではなく、共通の指標によって見る者が自らの問題に引き寄せることを助け、遠く離れた地域や異なる文化圏での人々の生活に思いを馳せるための道具になっている。定性的な表現ばかりが想像力をかき立てるとは限らない。

このように状況の異なる都市が集められ並列展示されることによって見えてくるのは、都市同士の差異だけではない。むしろそれらの類似性が浮かび上がってくるのだ。ここで顕になる類似性とは、都市の映像にも垣間見られた生活の親近性であり、農村からの人口流入や産業構造変化による市街地の変容や温室効果ガスといったグローバルな問題であり、クリチバの模範事例に習ったボゴタが都市変革に成功したように都市を形づくるデザインの技術を都市同士が学びあい実践していることによるものである。

イスタンブールのプロファイリング。 ロサンゼルスのプロジェクト。
サン・パウロの集合住宅。 東京のプロファイリング。

たとえば、サン・パウロでは学校を、カラカスではスポーツジムを、ボゴタでは図書館を建設していくことによって子供たちの居場所を作り出している。格差のある地区同士をつなげていくためにロンドンではオープンスペースが、ボゴタでは自転車道が、バルセロナでは公園がデザインされる。また、ムンバイやメキシコ・シティではデザイン・クオリティの高いアフォーダブル住宅(※2)が住民の尊厳を取り戻している。このように世界中の都市が少しずつ似た問題を抱え、他の都市の成果を見ながら、自らにフィットするデザイン手法を探っている。

一連の展示に通底するのは、民主主義やサスティナビリティや都市の寛容さの実現のために、デザインの力でなせることがあるということ。このようなポジティブなムードは、たとえば、民主性実現の鍵として都市のデザインを語り実践を重ねてきたリチャード・ロジャースが今回のビエンナーレの金獅子賞を受賞したことにも象徴されているように思われる。
展示は、建築家を始めとするデザイナーに行動を呼びかける形で終わる。現代都市にはデザイナーが能力を活かす場があり、また活かすべきである、と。国際“建築”展において「都市。建築と社会」の展示を行ったことの意図はここにあるのだろうと思う。

※1 GIS
地理情報システム。デジタル地図データと関連するデータベースを結びつけ統合的に扱うシステム。地理情報の構築、管理、分析、表示などを行う。

※2 アフォーダブル住宅
本来「収入に見合った家賃や価格の住宅」という意味であるが、特に中低所得者でも取得あるいは賃貸可能な住宅を指すことが多い。


(おわり)

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アルセナーレ会場メイン展示場外観。
展示される16都市。
対象各都市の都市形態。
各都市の公共空間を24時間定点撮影した映像。
都市の人口模型。
都市の人口模型。
東京は世界最大の都市圏。
円筒の下に立つと都市の音が体感できる。
展示の最終章。世界の都市の展望。
金獅子賞を受け取るリチャード・ロジャース。
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