アルセナーレ会場で行われたビエンナーレのメイン展示は、世界の大都市(圏)を多様な観点でプロファイルし、世界中で起こっている都市の変容について展望を与えようとするものである。リッキーとLSEのスタッフが中心となり、各都市のパートナーの協力の下、まとめられた。私もこの展示に東京のパートナーとして携わった一人である。ここで取り上げられるのは、ロンドン、バルセロナ、ベルリン、ミラノとトリノ、ヨハネスブルク、カイロ、イスタンブール、ニューヨーク、ロサンゼルス、サン・パウロ、ボゴタ、メキシコ・シティ、カラカス、上海、ムンバイ、そして東京の16都市圏である。
会場はかつて造船所であった細長い建物。全長300メートルに達するこの会場で大陸ごとに各都市のプロファイルが展示される。300メートルの世界一周の間、ところどころで小休止のようにテーマ展示が挿入される。各都市の特徴的な公共空間を24時間定点撮影した映像や、都市交通のアクセシビリティを比較する画像などのテーマ展示が見られた。
公共空間の24時間映像は、たとえば東京は渋谷駅前交差点であるが、各都市の生活が垣間見えて見飽きない。選ばれた公共空間の性質はさまざまで、人の密度や1日のうちの賑わいの波はそれぞれ異なる。しかし、行き交いあるいは留まる人々の様子はどの都市でも意外なほど身近な印象があり、グローバル化した現代都市の日常生活は私たちの日常のすぐ傍らにあるということをあらためて実感する。
テーマ展示の中でも、各都市の人口密度を立ち上げた模型は、迫力があった。上海やムンバイのそそり立つ人口模型に圧倒され、他のヨーロッパ都市とは一線を画すバルセロナ市街の高密さや東京のピークがそれほど高くないことをあらためて発見する。統計データのグラフやGIS(※1)的な表現がベースになっている展示の中で、異なる表現の可能性を探っていたことがわかる。
さて、各都市は、空間的・社会的データ、都市の日常、都市にインパクトを与えるプロジェクトという観点から多角的にプロファイルされる。たとえば、農村から仕事を求めて人が流れ込むカイロでは、780万の人口のうち60%の人々が不法占拠状態で居住し、一人当たり1平米のオープンスペースしかもたない。この過密都市の生活環境を緩和するために、500年来のゴミ捨て場を公園に生まれ変わらせるプロジェクトが1990年代に進められた。これがきっかけとなって周辺地区の環境改善が進みつつある。写真と映像と音声で、市場の雑踏の賑わいや、みっちり建て込んだ茶色い建物群の屋上という屋上に一斉に同じ向きを向いたパラボラアンテナが並んでいる風景が展示される。
カイロで示された人口やオープンスペース面積など統計データの多用は、都市の状況の量的な把握そして世界の諸都市の比較を可能にする。しかし数量を示すこと自体が目的なのではなく、共通の指標によって見る者が自らの問題に引き寄せることを助け、遠く離れた地域や異なる文化圏での人々の生活に思いを馳せるための道具になっている。定性的な表現ばかりが想像力をかき立てるとは限らない。
このように状況の異なる都市が集められ並列展示されることによって見えてくるのは、都市同士の差異だけではない。むしろそれらの類似性が浮かび上がってくるのだ。ここで顕になる類似性とは、都市の映像にも垣間見られた生活の親近性であり、農村からの人口流入や産業構造変化による市街地の変容や温室効果ガスといったグローバルな問題であり、クリチバの模範事例に習ったボゴタが都市変革に成功したように都市を形づくるデザインの技術を都市同士が学びあい実践していることによるものである。 |