2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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都市の共通言語

今年のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展のテーマは「Cities. Architecture and Society(都市。建築と社会)」である。都市がテーマに掲げられたのは10回目を迎える今年が初めてだということは、意外でもあり、別の側面からは納得もできる。

意外、というのは、ビエンナーレ自体が都市に類似しているのに、なぜこれまで取り上げられてこなかったのだろうという気持ちである。都市は異質なるものの同時存在とその密度に特徴付けられる。その中で自らをプレゼンテーションし、他者の視線によってあらためて自らを確認する。これはビエンナーレのあり方そのものであり、前稿で書いた社交にも通ずる。

その一方で納得できるのは、都市をテーマとすることの時期的な意味を考えたときである。2002年、国連ハビタット(国際連合人間居住計画)のアンナ・ティバイジュカ氏は、サスティナブル・アーバニゼーションの必要性を主張した。サスティナブル・ディベロップメントという言葉で漠然と捉えられていた概念に対して、都市こそが重点的なデザイン対象であることを世界が認識し始めていた。では、具体的にどのようにデザインするのか、そこで建築家の果たす役割とは何か。それが世界の様々な地域で思索され、実践され、失敗と成功を孕みつつ発表できるようになってきたのが、この時期なのだと思う。つまり今日、都市は地球上の様々な地域で共有されるテーマなのである。

だから、各パビリオンでの展示はグローバルな現代都市への態度の表明であり、それぞれの地域で培われた都市の理念や実践を確認し強化する場になっていると見ることができる。

展示の中には、異質なるものとの共在をテーマとするものがいくつか見られた。デンマーク館の展示は、中国の大学とデンマークの建築家のコラボレーションによる中国の持続可能な都市開発の展示で、私はしばらく中国館だとばかり思っていた。ハンガリー館の展示は、メイド・イン・チャイナの安価なマス・プロダクツを用いたインスタレーション。ハンガリーは東アジアからの移民の玄関口となっており、こうしたグローバリティの発現と他者と隣り合う日常が自らの都市のアイデンティティであることを明るく表現する。

現代都市が直面する状況に対して建築家やアーバン・プランナーやランドスケープ・アーキテクトに何ができるのか、という問いに正面から答えていたのは、コンバージョン建築の可能性を多くのプロジェクトによって提示するドイツ館、ローカリティとグローバリティがせめぎ合う極北の3つの小都市のアーバンデザインを展示したノルディック館(フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)、積層する歴史と現代的な出来事とが衝突するソウルをフィールドに5人の建築家のプロジェクトを展示する韓国館などである。

必ずしも提案的な展示ばかりではない。ベネズエラ館は引き伸ばされた写真が壁一面を覆っているだけの簡素な展示であるが、圧倒的な都市の現実を私たちの目の前に突きつける。

左上から右の順に、ドイツ館、ノルディック館、韓国館、ベネズエラ館

そして、最も印象深かったのが、スペイン館の展示である。プロジェクトに関する模型やドローイングと、関係する人物たち(すべて女性であった)の語る映像とがセットになっており、全体で100プロジェクト近くあっただろうか。都市を語っているのは、建築家やランドスケープ・アーキテクトであったり、自治体や関係機関の職員であったり、キュレーターやアーティストであったりする。それだけではなく、大学生や市場で働く女性など、多様な市民が含まれる。彼女たちはそれぞれの立脚点から都市を語り、あるいは自分がどのように都市に関与するかを述べる。都市に対する興味が当たり前に隅々まで行き渡っている姿を目の当たりにし、私は感嘆のため息をついた。物的環境と多様な人々が形成する都市をいかにデザインするか、という全体テーマ(都市。建築と社会)に真っ直ぐ応えるものであり、その底力を見せ付けるに十分な展示であった。

表現形式は多様であったが、多くのパビリオンで、グローバルな文脈にある都市的状況に対する姿勢の表明がなされようとしていた。豊かなローカリティという訛りをもちつつも、コンテンポラリーな共通言語で語りかけてくるいくつもの都市の声は、大きな一つの物語を構成しようとする。ビエンナーレに都市というテーマを与えることの意義は、そこにある。ヴェネチアから新しい世界の物語を作り始めようじゃないかというリッキーの呼びかけに、多くの都市が応えているのだ。

(第4回へつづく。)

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デンマーク館
ハンガリー館
スペイン館
ベルラーヘ・インスティテュートの展示。異なる背景を持つもの同士が都市を語る場としてのビエンナーレ。
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