2006 第10回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展 レポート
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ヴェネチア・ビエンナーレ建築展レポート HOME
ビエンナーレとヴェネチアのまち/伊藤香織

都市や建築を専門としている身としてはあまり大きい声では言えないのだが、不幸にしてこれまでにヴェネチアを訪れる機会がなかった。私は今回のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で、総合ディレクターであるリチャード・バーデットに対して展示の制作協力をしてきたこともあり、9月7日〜9日のオープニング・プレビュー期間のうちの2日間、ヴェネチアを訪れることになった。私にとっては初のヴェネチア、初のビエンナーレ建築展。展示の内容についてのレポートは後日あらためてアップロードするとして、まずは全体の印象を書いてみようと思う。

出発前に「ビエンナーレ建築展で盛り上がるまちの様子をレポートしようと思います」と言ったものの、いざヴェネチアに到着してみると、この時期必ずしもビエンナーレが支配的ではないのだということに気づく。まずはまちなかにうねるような観光客の波を目の当たりにし、観光都市ヴェネチアに圧倒される。たしかに、こんな気持ちの良い季節にヴェネチアを訪れたいと誰もが思うだろう。おかげで、水上バスはどの時間もラッシュ時の地下鉄みたいに混んでいるし、サンマルコ広場近辺は日曜の渋谷駅前交差点のような人の波だ。加えて、ヴェネチア映画祭も同時期に開催されている。映画祭の会場はリド島だが、リアルトで水上バスを待っていると、隣の乗客が映画祭の話題で盛り上がっていたりする。

とはいえ、注意しながらヴェネチアのまちを歩いていると、そこここにビエンナーレ建築展の断片を見出すことができる。メインの展示会場となるアルセナーレとジャルディーニのほかにも、まちの中に埋め込まれるように展示会場が点在している。こうした会場はビエンナーレの回を重ねるごとに増えているらしい。なお、今回のビエンナーレ建築展では、ヴェネチアだけでなく、シチリアのパレルモでもCity-Portと題された展示が展開されており、ビエンナーレの規模は増大する傾向にあるようだ。

ヴェネチアのまちは迷路のようで、たとえ地図を持っていても目的地にたどり着くのは容易ではない。だから、メインの2会場を含め、各会場に続く細い街路の入り口にはビエンナーレの案内サインが立てられ、まちにちょっとしたアクセントを与えている。あるいは、道に迷って彷徨っていると、思わぬところでパビリオンに遭遇したりする。島中がみっちりと建て込まれた水上都市ヴェネチアでは、ビエンナーレの規模拡大に応じて新しいまとまった会場を得ることはできないので、既存のまちの中への侵食は必然といえる。結果的に、ビエンナーレのまちとの融合が促されているのかもしれない。

パビリオンの方向を示すビエンナーレ建築展のサインはまちのあちこちにある。
ビエンナーレ建築展のポスターもところどころで目にする。

そしてもう一つ目を引くのが、バッグ。まちに溢れる人々に「住民」「観光客」「建築展参加者」「映画祭参加者」といった名札がついているわけでもなくその構成比はわからないのだが、実は観光客であふれるサンマルコやリアルトでも、建築展参加者を見つけることがしばしばある。目印になっているのが、各国パビリオンで資料配布用に配られているバッグや建築展ブックショップで販売されているバッグだ。各国のデザインを施されたバッグが建築コミュニティのアイコンになっていて、迷路のような路地でもまちなかのレストランでもちょっとした仲間を見つけたような気分になる。

知人の韓国のアート・キュレーターは、「アート展は作品自体の展示だが、建築展は国や設計事務所のプロモーションにしか見えない」と戸惑いの感想を漏らしていた。たしかにこのイベントは国や地域のブランディングを含んでいるのだと思う。色とりどりのバッグが参加者によって会場からヴェネチアのまちに散らばっていく様を思い浮かべると、その感を強くする。都市や地域は、単なる自立や依存の関係ではなく、競争と連携の関係を強めている。デザインで個性を強調するプロモーションは、都市の戦略の一つだ。ビエンナーレがその格好の場となるのも納得がいく。

それにしても歯がゆいのは、ヴェネチアのまちが美しいこと。展覧会場で垣間見ることができる世界の都市と建築の現在。一歩外へ出ると実空間としてのヴェネチア。限られた時間の中で、どちらを選ぶべきか。それが今回の訪問についてまわった私の葛藤だった。

各パビリオンやイベントで配られたバッグ。
左上から右の順に、デンマーク、英国、アイスランド、韓国、シンガポールのパビリオン、
ビエンナーレ国際建築展のオープニング・パーティ、ロッテルダムのプロジェクト(2種)。


(第2回へつづく。)
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サンマルコ広場近辺は人で溢れる。
すし詰めの水上バス。
ラトビアパビリオンのさいころ型住居がまちなかで転がされていく姿は、一種のパフォーマンスになっている。
サンマルコ広場から、アルセナーレ、ジャルディーニ会場方向を臨む。
美しいヴェネチアのまち。
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