都市や建築を専門としている身としてはあまり大きい声では言えないのだが、不幸にしてこれまでにヴェネチアを訪れる機会がなかった。私は今回のヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で、総合ディレクターであるリチャード・バーデットに対して展示の制作協力をしてきたこともあり、9月7日〜9日のオープニング・プレビュー期間のうちの2日間、ヴェネチアを訪れることになった。私にとっては初のヴェネチア、初のビエンナーレ建築展。展示の内容についてのレポートは後日あらためてアップロードするとして、まずは全体の印象を書いてみようと思う。
出発前に「ビエンナーレ建築展で盛り上がるまちの様子をレポートしようと思います」と言ったものの、いざヴェネチアに到着してみると、この時期必ずしもビエンナーレが支配的ではないのだということに気づく。まずはまちなかにうねるような観光客の波を目の当たりにし、観光都市ヴェネチアに圧倒される。たしかに、こんな気持ちの良い季節にヴェネチアを訪れたいと誰もが思うだろう。おかげで、水上バスはどの時間もラッシュ時の地下鉄みたいに混んでいるし、サンマルコ広場近辺は日曜の渋谷駅前交差点のような人の波だ。加えて、ヴェネチア映画祭も同時期に開催されている。映画祭の会場はリド島だが、リアルトで水上バスを待っていると、隣の乗客が映画祭の話題で盛り上がっていたりする。
とはいえ、注意しながらヴェネチアのまちを歩いていると、そこここにビエンナーレ建築展の断片を見出すことができる。メインの展示会場となるアルセナーレとジャルディーニのほかにも、まちの中に埋め込まれるように展示会場が点在している。こうした会場はビエンナーレの回を重ねるごとに増えているらしい。なお、今回のビエンナーレ建築展では、ヴェネチアだけでなく、シチリアのパレルモでもCity-Portと題された展示が展開されており、ビエンナーレの規模は増大する傾向にあるようだ。
ヴェネチアのまちは迷路のようで、たとえ地図を持っていても目的地にたどり着くのは容易ではない。だから、メインの2会場を含め、各会場に続く細い街路の入り口にはビエンナーレの案内サインが立てられ、まちにちょっとしたアクセントを与えている。あるいは、道に迷って彷徨っていると、思わぬところでパビリオンに遭遇したりする。島中がみっちりと建て込まれた水上都市ヴェネチアでは、ビエンナーレの規模拡大に応じて新しいまとまった会場を得ることはできないので、既存のまちの中への侵食は必然といえる。結果的に、ビエンナーレのまちとの融合が促されているのかもしれない。 |