3ヶ月に渡るビエンナーレ開催期間には、メインの展示に伴い、様々な付属した展示とイベントが行われた。ヨーロッパの中でもとくに都市計画が盛んなオランダだが、建築家とその作品といった展示ではなく、都市をテーマにリサーチしたものがビエンナーレの軸になっている。今回のレポートではビエンナーレの「ニュー・ダッチ・シティ」、「ベター・ワールド」展についてと、ロッテルダム都市年にちなんで行われたふたつのイベントについて紹介したい。
クンスタハルの会場では「ヴィジョナリー・パワー」展にともない、「ニュー・ダッチ・シティ」というテーマでオランダの未来像を描いた展示が行われた。オランダお得意のデータスケープで将来を割り出したパネル展示のなかで、とくに興味深かったのは2020年のハーグの計画案だ。行政の中心地であるハーグには北海沿いにレジャー施設が立ち並ぶビーチがあり、一方、内陸で港を持ち、ビジネスのセンターであるロッテルダムにはヨーロッパ路線の小さな飛行場がある。このふたつの都市の「レジャー」と「ビジネス」という、片方にしかないもの同士をインフラで結ぶ新たな案が紹介されている。実際に、今年はふたつの都市の間にある大学町デルフトからは、ハーグへ1時間で行けるトラムが開通するため、ロッテルダムまで延びるのは間違いなく時間の問題だ。この展示では特異な切り口で、新たな都市像が描かれている。
建築博物館3階、小展示室で行われた「ベター・ワールド」展では形体としての建築ではなく、建築計画プロセスに焦点を当てた4つの展示がおこなわれた。ニューヨーク、アムステルダム、イスラエル、セビリアの都市のリサーチであるが、共通テーマとして、コレクティブなデザインとは何かが問われている。テーマにともない展示で目を引いたのは、それぞれの表現手法であった。建築図面とは違い、コミュニケーションという数で図ることの難しい行動をいかに図式化するか、あるいは動画を通して表現するかは、規則がないだけに難しく、バラエティーに富んだカラフルな展示となった。ピクトグラム、イケアショップのマニュアル、キッズ本などの難解でない、分かり易い展示手法が多かった。
ビエンナーレと平行して市内全域で行われている「SITES & STORIES」と「ロッテルダム・ビルボード」は、ロッテルダムを建築年として盛り上げる重要なイベントであった。市は街全体を巨大美術館とみなした展示を行っているが、「SITES & STORIES」という企画は、建築観光名所となる建築を展示物としてプレゼンテーションしている。50箇所もの建築物は紫色の装飾が施され、ナンバリングされている。例えば有名なキューブハウスでは、一つの外壁が丸ごと紫色に装飾され、建築博物館前の水辺にはいくつもの紫色のボールとそれと同じ素材で作られたカルガモが浮かべられている。駅前の保険会社のビルはカーテンウォールの一部が下から上まで紫のラインを描いている。そして美術館の音声ガイドシステムのように、すべての観光スポットでは、携帯電話に音声ガイドをMP3でダウンロードできる仕組みになっている。
一方、ウイニー・マースが指揮を執り、世界各国60箇所から参加したデルフト工科大学の学生たちによる「ロッテルダム・ビルボード」というワークショップは、2067年のロッテルダム像を描いた巨大コラージュシリーズを街の中に展示している。街をツールとして建築をアピールするというアイデアは、時間を掛け、計画に携わる人々を増やし、街を作り上げていくという都市計画的な見方がオランダに根付いているから可能なのだと思う。
今回のビエンナーレは以前に比べ、全体的に小規模で地味な印象だ。ベルラーヘによるキュレーションということもあり、学生と若手建築家が軸となり、リサーチをメインに展示している。にもかかわらず、世界各国の様々な都市の状況と計画案が都市計画レベルで一堂に集められた展示は、他ではあまりない質と量を保っていたように思う。これまで様々な切り口で都市をテーマに行われてきたロッテルダム・ビエンナーレだが、今回は都市を動かすパワーについて焦点が当てられ、政治的なものからエコロジカルなアプローチのものまで提案に幅があり、都市形成のシナリオを垣間見る興味深い展示であった。
9月第1週のビエンナーレの閉幕とともに、次回ビエンナーレは、オランダ国内外で140以上もの都市計画を行ってきたKCAPのケース・クリスチャンセンが総合キュレータを務めると発表された。またしてもマスタープランナーがキュレーターになるということで、「都市」を軸とするロッテルダム・ビエンナーレの位置づけは変わらないものとなるだろう。
(おわり) |