オランダの都市計画は、あらゆるレベルでの「対話と合意」によりつくられるということは有名だが、ビエンナーレという国際イベントの舞台においても、「対話と合意」は同じように機能しているように思われる。例えば2年前のビエンナーレでは、ほとんどの主要デベロッパーと都市が参加した大規模なイベントが行われた。そこでは、デベロッパーや市が個々のプレゼンテーションブースで自らの宣伝をするとともに、1時間ごとに開かれる5つのディベートにおいては、都市計画家、デベロッパー、建築家といった都市計画に関わる多様な立場の人々が、そのとき最もホットな都市計画について侃々諤々と議論を重ねた。オランダの建築シーンがどのように動かされるのかがわかる、大変驚きのあるイベントであった。
今回のビエンナーレでは特にディベートとリサーチに重きが置かれ、「パワーラウンジ」と題した全26回のレクチャーシリーズが2週間に渡って行われた。このシリーズには、メイン展示の「ヴィジョナリー・パワー」に関するディベートから、おもにオランダ人を対象としたロッテルダム建築都市年のイベントに関するものまで組み込まれていた。いくつかのレクチャーはオランダテレビ局がサポートし、インターネットを通して見ることが出来る。(http://www.hollanddoc.nl/dossiers/34361779/)
今回のレポートでは、私が足を運んだ、ウィニー・マース(MVRDV)のレクチャー「The Urban Future and the Power of the architect」と、最近注目されつつある都市、ドバイに関するレクチャーについて紹介したい。
ニューズウィークの「Going Global」という特集号の表紙のスライドで幕を開けたウィニー・マースのレクチャーは、「建築が社会にパワーを与えるツールとして、何をターゲットに、どのようなアクティビティを作ることが出来るか」という問いかけから始まった。もちろん、コンピュータをいかに建築デザインツールとして取り入れるかという彼らお得意のデータスケープについての例も、様々なスケールでプレゼンされた。しかし、それ以上にレクチャーの中では、「建築家としていかにグローバルな、社会的な枠で答えていくことが出来るか、そして戦略をつくれるのか」という言葉が繰り返され、掴み難い抽象的な社会に取り組む、彼の「Going Global」な意識が垣間見られた。
最近オランダでも、あちらこちらで中東のプロジェクトの話が入ってきており、私のような小さな事務所でも、フューチャーシステムズを押しのけて250戸の集合住宅のコンペに勝ったところだ。建築界では、まさにチャイナブームの後のドバイブームである。イエール大学のイーステリング女史のレクチャーでは、新しく経済効果を生むポストラスベガスとして、ドバイがどのような戦略で計画されているかが分かり易く説明された。コマーシャルのみならず、カルチャー戦略を取っているところがポストと言われるところだろう。ドバイは文化と教育に力を入れており、グローバルキャピタルとしての新しい技術開発で都市を創り上げること自体が、カルチャーマーケット効果を生み出すと目論み、日本の技術者とも組んで鉄道網、地下鉄網の開発を進めている。グローバルなエネルギーの使い方の提案としてサスティナビリティに関する政策の話も挙がった。免税特区として開発されているITフリーゾーン、福祉フリーゾーン、クリニックフリーゾーンなどの、様々なフリーゾーン政策から得られる利益がワールドパワーを生む所以が、クリアーに表現されたパワフルなレクチャーであった。
最後にベルラーヘで行われた国際ワークショップについて触れてみたい。9カ国の大学との交換プログラムで、60名の学生たちが参加した。テーマはロッテルダムのマース川を挟んだ対岸のエリア、サウスパクトの再開発である。ベルラーヘで行われるデザインスタジオのほとんどは、実存する敷地を、市や民間企業からの情報のサポートを受けながらスタディするが、このワークショップは、ロッテルダム市がこの10年で再開発を進めようとしているエリアのコンセプトスタディである。一つの開発エリアに対して、学生から社会人を含め、あらゆる意見を取り入れ、検討するという姿勢はオランダらしい。このように、国内だけではなく世界の意見を街づくりに組み込んでいく姿勢にこそ、国際的に注目される街づくりがオランダで可能になるヒントがあるのではないか。
次回は残りのビエンナーレに関する展示と、ロッテルダム建築都市年に関するイベントについてレポートする。
(第4回へつづく。敬称略) |