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レクチャー・シリーズ:建築と写真の現在
第2回「写真家と建築」 講師:畠山直哉(写真家)

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レポート
建築の本質を写し出すこと
レポーター:大家 健史

©クドウフォト
ここ数年の間に、いわゆる建築写真家ではない写真家による表現手法を用いた建築写真が多く見られるようになりました。多くの一般誌・専門誌が近年、建築写真に関する特集を組んでいることからも、現在の建築写真の動きに対するメディアの注目度の高さが伺えます。建築自体を取り上げる一般誌が増えたこともその原因のひとつとして考えられますが、このような潮流の背景についてもう少し詳しく考えてみる必要がありそうです。
前回、多木浩二はその講演において、写真の発明から今日に至るまでの建築と写真の関係性を示し、その可能性を極端な形で追求している写真家の例としてオリバー・ボバーグ(Oliver Boberg)を挙げました。ボバーグは精巧な模型をつくり、それをまるで本物の建築であるかのように写真に撮るという手法で私たちに衝撃を与えました。今回の講演で畠山は、写真家の側から建築写真という領域がどう見えているのか、それを語ってくれました。
記録か表現か

©クドウフォト
畠山はまず、自分のところに寄せられた建築学生からのメールを紹介しました。そこには建築雑誌に載っている建築写真と、いわゆる写真作家が建築を題材にして撮った写真を対比的にとらえた文章がありました。畠山はそこにひっかかりを感じたと言います。

建築雑誌は写真と図面、文章などを組み合わせて建築を紹介します。その誌面の大部分を占めるのが建築写真と呼ばれるものです。そこに写っているのは竣工直後の建築作品が多く、その空間にはほとんど人の姿はありません。そのような写真の多くは、4×5(シノゴ)と呼ばれる大型カメラを用いて、床や壁の水平・垂直のラインが歪まないようにアオリを調整して空間を撮ります。私たちはいつの間にか、そのような形式の写真が建築写真であると思いこんでいます。建築写真は多くの人に建築を伝えるメディアである一方、アーカイブとしての役割も果たす必要があるため、同じ形式で客観的に記録する行為が続けられてきたのかもしれません。そのため、建築雑誌でそのような形式から外れた建築写真を見ると私たちは違和感を覚えます。
建築写真家はそうした形式を踏襲して建築を「記録」として撮り、一方で写真作家として作品を発表する写真家は広い意味での建築を「表現」として撮る、と説明することは簡単です。しかし、畠山は「写真は常に、記録であり表現である。写真には二分法という言葉よりも二重性という言葉の方がふさわしい」と話します。ファインダーのこちら側には人の主観的な眼が必ずあるわけですから、「記録」と「表現」をわけて考えることはあまり意味のないことです。それよりも写真家がそのことをどれだけ意識しているかということが重要ではないでしょうか。

今回の講演では語られませんでしたが、畠山と伊東豊雄との共著である『UNDER CONSTRUCTION』(2001)は形式的な建築写真に対して問題を提起する写真集です。「せんだいメディアテーク」の建設過程から開館後の状況までを撮り続けたこの作品は、人がいない静寂な竣工後の一瞬だけを切り取った建築の特別な姿ではなく、いまにも動き出しそうな生きた建築の姿を私たちに見せてくれます。ここでは畠山のいう「記録」と「表現」の二重性がよく見て取れます。また、彼がそのことに対して非常に自覚的であることを感じさせます。
視覚をゆさぶる比喩としての写真
畠山は約20年前から撮り続けている東京の俯瞰写真のシリーズ「Untitled 1989-」や六本木ヒルズのオープニングを記念して制作された巨大な模型を撮影した「東京模型」など、都市や建築を読み解くためにさまざまな表現方法を使った作品をつくっています。こうした態度は、あらゆるスケールや方法を駆使して都市や建築の本質を写し出そうとする写真家の挑戦のように感じられます。こうした作品を前にすると建築と写真の関係を「見えるもの」と「見るもの」という従来の構図だけで読み解くことはもはや困難です。

クロード・レヴィ=ストロースの言葉を借りて、畠山は「部分から全体を認識する現実世界とは逆に、縮小模型の場合は全体から部分への知覚の動きが可能になる」と説明します。建築や都市の比喩として模型などを用い、見るものの視覚をゆさぶることによって、現実の都市や建築を認識しようとしているのです。写真の中に埋め込まれた縮小世界は、そこにある本質だけを浮かび上がらせます。ここには従来の形式の建築写真には写らないような、都市や建築の本質を伝える写真の可能性があります。写真で建築を記述する方法はもっと多様であっていいはずです。それを畠山は教えてくれます。
プロフィール
■大家 健史(Takeshi OIE)
1977年大阪府生まれ、編集者。早稲田大学理工学部建築学科卒業後、同大学大学院修士課程修了。現在、フリックスタジオ勤務。共著に『リノベーションの現場-協働で広げるアイデアとプロジェクト戦略』(彰国社、2005)。
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